秀才VS綾人2

 それは学園祭当日の話。学園祭前も激務だったが、当日もやることが沢山ある。

 

「(生徒会長は、顔色ひとつ変えてないな……)」

 

 流石だ、とはいえ前回のこともある。綾人くんからちゃんと気付いてやれ、と言われたのでなるべく確認しているが、今は問題なさそうである。

 

「ねー先輩? 見過ぎじゃないですぅ?」
「不敬だぞ……」

 

 生徒会長の後を一緒に歩いていた河相くんと椋木くんが左右から小声でそんなことを言ってくる。

 

「君たち……、前回のこともあるんだからしっかり僕らが見ていないと」
「そんなこと言ってぇ、見たいだけじゃないんですかぁ?」

 

 そんなことはない! と言いそうになって見知った声が耳に入ってきた。

 

「あ、東條くん、それに秀才くんだ」
「……!」

 

 ___さん! 来ていたのですね、と駆け寄りたいですが生徒会長の前ですし、業務中ですのでぐっと堪えて挨拶をする。

 

「お兄さん、こんにちは」
「こんにちはです」

 

 ペコリと頭を下げれば、___さんが苦笑いをする。

 

「……東條くんは劇に出なかったんだね」
「えぇ、生徒会でちょっと忙しくて……」

 

 そう笑う生徒会長に、___さんは俺の方に目を向けた。そしてまた苦笑い。

 

「そお……、大変だったねぇ……」
「はい、お兄さんは綾人の劇を見に来たんですか?」

 

 生徒会長の問いかけに___さんはビデオカメラを取り出して笑った。

 

「そうそう、祖母から綾人の劇が見たいから撮影してきてと頼まれてねぇ」

 

 今度、東條くんも見る? と聞いてくる___さんに生徒会長が嬉しそうに笑った。そんな会話を微笑ましげに眺めていれば俺の隣に居る二人が恨めしげに___さんを睨んでいた。

 

「チッ、あの平凡野郎の身内か」
「俗物が、俺のメシアに馴れ馴れしい……!」

 

 二人とも小声だが敵意に満ちた眼差しを___さんに向けていて俺はいい気がしなかった。

 

「……あの、良ければ学園祭の案内をしましょうか?」
「え?」

 

 ___さんの前に立ち、俺は提案する。

 

「見回りも手分けした方が効率がいいでしょうし、どうでしょう生徒会長?」
「そうだね……」

 

 ふむ、と考え込む仕草をする生徒会長。時間を確認した生徒会長が休憩もするべきかなと呟けばふわりと笑った。

 

「うん、生徒会の仕事もひと段落したし君たちは休憩するといいよ」
「い、いえ生徒会長! それは……!」

 

 流石に僕たちだけ休憩なんてできないと言いかけて俺の背後から綾人くんが現れた。

 

「そーだぞ東條! お前も休憩しろ!」
「綾人……!」

 

 腕を組み不機嫌そうな顔をした綾人くんが俺を見る。

 

「ほら、もっと言ってやれ」
「……!」

 

 その言葉に俺は生徒会長も休みましょうと強く言えば、河相くんと椋木くんも強く同意した。

 

「そ、そうかい? じゃあ……そうしようか」
「そうだそうだ!」

 

 そうと決まれば行くぞ! と綾人くんが生徒会長の手を掴む。

 

「俺は甘いもんが食いてーんだよ! 奢れよな兄貴!」
「えー?」

 

 嫌そうな顔をしつつ___さんはしょうがないなぁ、と歩き出した。その光景をポカンと見ていれば綾人くんが立ち止まって振り返った。

 

「…………来ねぇのかよ?」
「……! はい、行きます!」

 

 笑顔でそう答えて後を追えば、河相くんと椋木くんが抗議の声をあげながらついて来た。

 

(END)―
 河相「あーん、東條先輩! 僕も一緒に行きますぅ!」
 椋木「許さん許さん……!」
 綾人「うるせー! ついて来んな!」

 

 おまけ

 

「ありがとう綾人くん」
「はぁ?」

 

 活気に満ちた校舎から出て、人気の少ないベンチに腰掛けて兄貴に奢らせた練乳たっぷりのかき氷を食べていれば秀才がそう言ってきた。

 

「同行を許してくれたじゃないですか」
「……兄貴を連れ回そうとしたくせに」

 

 それは……、と言うと少し小声になってオレに耳打ちしてきた。

 

「……はぁ?!」

 

 その内容にオレが驚けば東條がどうしたの? と聞いてきた。

 

「いや、別になんでもねぇよ」

 

 そう答えれば兄貴がしらーっとした目でこちらを見てきた。

 

「…………なんだよ!」
「いや、なんでもない」

 

 なんだよ! と思いつつ秀才に視線を戻す。

 

「……兄貴になんかあったら許さねぇからな!」
「勿論だよ!」

 

 てめーにも言ってんだからな! オレはまだ許してねぇんだからな?! これはお前のことを見張ってんだからな!? と小声で畳み掛けても秀才は何故か嬉しそうに笑っている。

 

「綾人、いつのまに秀才くんと仲良くなったの?」
「仲良くなんかねーよ!!」

 

 東條の問いに大声で否定してオレはかき氷をかけ込み、頭が痛くなった。

 

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世界の思い通りになんて

 それはお昼の話。昼食を終え、次の授業まで一コマ空いているなと俺はブラブラ当てもなく歩いていた。

 

「(うーん、食堂で時間を潰すか? それとも外に出るか……?)」

 

 どうしようかなー、なんて考えていれば中庭に見知った人物が見えた。あの背中は、滝本だ。俺は可能な限り滝本のフラグを折ろうと行動しているのだが、効果があるのか正直なところさっぱりだ。

 

「(……誰かと一緒か?)」

 

 そう言えば今日は朝に言葉を交わしたきりだったな、と思いながらなんとなく、そうなんとなく忍び寄ってみる。

 

「(あれは……秋人か)」

 

 中庭に置かれているテーブルに腰掛けて何やら楽しそうに会話をしている二人。ああやっているとお似合いだ。

 

「(髪色も違うし背の高さも程々、参考書で見るような組み合わせだ)」

 

 秋人とは大学に通い出してから仲良くなった友達である。出会った当初はそれっぽいフラグを持っていて警戒していたが、秋人は苦学生で無茶しがちなタイプ。つまり属性的に受けだと判断したのでその内にお相手と遭遇するだろうと思っている。

 

「(なんの話をしているのやら……)」

 

 確かめたいが、こそこそと会話を盗み聞きなどめちゃくちゃ怪しいし参考書で見るような行動はやめた方がいい。やめた方がいいのだが、正直な話とても気になる。

 

「(こそこそするくらいなら堂々と声をかけた方がいいか……?)」

 

 そんなことを考えながら少しだけ二人に近付く。それにしても楽しそうだ。なんの話題で盛り上がっているのかは知らないが、コロコロと表情を変える秋人と、仏頂面のわりに周りに花を飛ばしている滝本。

 

「(本当に、参考書で見るような絵面……)」

 

 そんな言葉が浮かんで足が止まる。その瞬間、秋人の顔がこちらに向けられそうになって俺は慌てて物陰に隠れてしまった。

 

「どうした?」
「いや……なんでもない」

 

 そんな声が聞こえて、俺はそのまま気付かれないようにその場から離れた。胸がざわざわする、気持ちが悪い、ぐるぐるする。

 

「(何を考えてるんだよ、落ち着け)」

 

 頭の中に浮かんだ言葉になにを動揺しているんだと頭を掻きむしる。それならそれでいいじゃないかと自分に言い聞かせる。

 

「(あぁ、もう! なんなんだよ)」

 

 俺よりもいいんじゃないかとか、寂しいだとか、意識し過ぎている自分に腹が立つ。

 

「(……滝本は、本当に俺に告白したん、だよな?)」

 

 あの日が夢だったらよかったのにと考えたことがあるのに、何故か今は酷く不安になった。

 

-

 

「じゃあそれで決まりだな!」
「おー、助かった」

 

 話がひと段落して俺は背伸びをする。腕時計を確認してまだ次の授業まで時間があるなと思いながら辺りを見回す。

 

「(うーん、さっきのは気のせいだったか?)」

 

 そんな俺に滝本が首を傾げる。

 

「なにか気になることでも?」
「いや……、さっき誰か居たような気がして」

 

 その言葉に滝本は呆れた声を出す。

 

「昼時なんだ、人の行き来は多いだろう」
「まー、それはそうなんだけど」

 

 ちらっと知ってる顔だった気がするんだよなと思いつつ、滝本のさっきの話を思い出して口角が少し上がってしまう。

 

「それにしても、___って面白いやつだな」
「さっきの話は本人には黙っていてくれよ?」

 

 分かってるって! と言って俺は立ち上がる。

 

「じゃ、___の誕生日プレゼント、買えるといいな」
「あぁ、本当に助かった」

 

 滝本も立ち上がり俺たちは別々の方向に歩き出す。

 

「(そうだ、マサヤたちにも教えてやろう)」

 

 俺も今日、滝本に教えてもらったのだが、友達の誕生日はしっかり祝いたい。驚かせるのもいいかな? なんて考えながら俺はスマホを取り出した。

 

(END)―
 秋人「(それにしても滝本って___のことよく見てるんだなぁ……、面白い話が多くて、ふふ、また笑えてきた)」

 

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そう思いたいだけ?

 滝本に告白されてから、未だに有効打となる行動ができていないそんなある日。部屋の外でバタバタと足音が聞こえてきたかと思えば、俺の部屋の前でピタリと止まり、少し間を置いて小さくノックされた。


「なにー?」


 この感じ、母さんや親父ではないな、と思いつつ声を出せばゆっくりと扉が開けられる。


「あ、兄貴……」


 やはり綾人か、いつもと違う様子の弟に俺はなんとなく察してしまった。戸惑いのある顔に妙に赤い頬。綾人は俺の部屋に入って扉を閉めると、目を逸らしながら話し出した。


「兄貴、オ……と、友達がさ、ずっと親友だと思ってた奴に告られたらしくて」


 その言葉に俺はマジかよと頭を抱えそうになる。そんな分かりやすい態度で相談してくるなよ、勘弁してくれ。


「(兄弟揃って似たような状況になってんじゃねぇーよ)」


 誰に対して言ってるのか自分自身さっぱり分からないが、ここは全力で否定しておくべきだろう、綾人の反応的に手遅れな気もするが……。


「あーハイハイ思春期によくある錯覚ね!友情と恋愛のはき違え!気のせい!」


 そうだ、そもそも近い距離で接するから勘違いしてしまうんだ。BL漫画の連中とは大体そんな感じなのだ、何回も見た。


「な、なんでそう言い切れるんだよ……!」

「そういうもん、そういうもん」


 あっはっはと笑えば綾人が軽く俺のことを蹴った。


「テキトーなこと言いやがって……、こっちは真剣な話してんだよ!気の迷いだって言うのか?」

「そうそう気の迷い、気の迷い……」


 綾人の言葉をオウム返しして、あの日の滝本の顔が鮮明に浮かび上がった。


「俺は___のことが好きだ」


 真っ直ぐな瞳、振り絞った声、決意を感じさせる表情。考えないようにしていたあの日のことを思い返せば返すほど、真剣だったのだと理解してしまう。


「(俺はあれを……気の迷いって言い切れるのか?)」


 友情と恋愛のはき違えだと断言できるのか?


「(いやいや、なにを考えているんだよ。ここはBL漫画の世界だぞ?そういう仕組みなんだよ)」


 だから滝本のあれは、そういう風に世界が……。


「…………あ?」


 そこまで考えて綾人が俺の顔を覗き込んでいたことに気付く。


「おい、お前なんか隠してるだろ?」

「は?」


 ジトっと俺を睨む綾人に変な声が出た。やべ、この流れは……!


「やっぱなんか隠してんだろ?!なんだ、お前もしかして……!」

「え、あー悪い悪い、ちょっと別のこと考えてた」


 もしかしてってなんだもしかしてって、兄弟揃って親友に告られたなどと共有してしまったら相当面倒くさいことになる。


「(こうなったら……!)」


 俺はすぐさまこの話を終わらせる行動をとった。


「いやほんと、なんも食べてな、あ」

「あぁ?!」


 今なんつった?!と綾人が食いつき、キッチンへと猛ダッシュしていった。


「(ふぅ……、都合よく弟のアイス食っといて良かった)」


 わりと常習犯なんだが、まぁそんなことはどうでもいい。綾人の前で滝本のことを考えてしまうなんて、何をやっているんだ俺は。


「(でも、相変わらず滝本からあの日の話は出てこない)」


 フラグを折りたいのに、誰かにフラグを丸投げすることも失敗続きだし、どうしたものか……。


「(……つーか、あれ本当に現実だったんか?)」


 部屋の扉を閉じて寄りかかる。あれが俺の聞き間違いで、今までの滝本の行動が俺の勘違いならばいいのに、なんて考えていれば一階から綾人の叫び声がした。


(END)―

綾人「おいクソ兄貴!てめぇオレの限定アイス食いやがったなぁあ!?」

 

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酔っ払い主人公・仲良しifトリオ編

 その日はいつものように我が物顔で僕の家で寛いでる友人二人に呆れつつ、僕は一つのお酒をテーブルに置いた。

 

「じゃじゃーん! 見て見て、お中元で届いたんだー♪」

 

 自由に好きなことをしていた友人たちが僕の言葉を聞いてこちらを見てきた。そしてテーブルに置かれているお酒に気付いて興味津々に近付いてきた。

 

「おー、流石は先生、いいモノ届くねぇ……」
「何万くらいすんのこれ?」

 

 早く飲みたい、という意志がひしひしと伝わってくる___くんと、ずけずけと聞いてくる水元くん。

 

「まだ飲むとは言ってないし、そういう事を聞かないの!」

 

 もー、タダ酒とタダ飯に味を占めた者どもめ、と僕が考えれば水元くんは少し目を逸らした。

 

「じゃあ自慢したかっただけか?」
「そんなわけないじゃん」

 

 勿論、今日はこれを飲もう! と笑えば「はいはい」とコップを用意してくる___くん。相変わらず早いなぁ……。

 

「(むっふっふ、今日も沢山のネタを提供してもらうよ!)」

 

 あー、二人の話はネタの宝庫だから楽しみだよー!

 

「はぁ……」
「どうしたの水元くん?」

 

 突然ため息を吐いた水元くん、首を傾げて聞いても無視された。まぁいいや、料理とかなんかたーのもっと♪

 

 …………
 ……

 

 飲み始めてから数時間が経った頃、家にあった他の酒も開けたりして僕と___くんは沢山の酒を飲んだ。

 

「相変わらずお前ら飲み過ぎだろ……」
「そんなこと言ってる水元くんも顔赤いよー」

 

 セクシーだね、いいね! イケメンはやっぱ最高だね! と考えれば水元くんはげんなりする。

 

「___くんもそう思……って、なにやってんの?」

 

 そう言えばなんか静かだなぁ、と思っていれば___くんは大きめのお皿に入れられているお菓子に何かをしていた。

 

「…………」

 

 話しかけても返事はなく、顔だけじゃなく首元まで真っ赤の___くんは、なんと柿の種とピーナッツを黙々と分けていた。

 

「…………え、なにそれ、ちょっと___くん!?」

 

 普段なら絶対にそんな、可愛いことしないじゃん! ネタをありがとう! と思いつつ、僕は食べ物で遊ばないの、と言って近寄れば___くんがピーナッツを僕の口に突っ込んだ。

 

「あそんでない」

 

 ほら食え、と柿ピーのピーナッツだけを食べさせられる。同じように___くんは水元くんの方を向きピーナッツを差し出して、水元くんは黙って受け取り食べた。

 

「…………相当酔ってるぞソイツ」
「そ、そのようで……」

 

 珍しいなぁ、嬉しいなぁなんて思っている間にも仕分けられていく柿ピー。時折、柿の種を摘んで食べる___くんの表情は無邪気な子供のような笑顔で、どうやら柿の種の方が好きな様子。

 

「___くん、僕たちにも柿の種ちょうだいよ!」
「だめ」

 

 ピーナッツ食え、とバッサリ言う___くん。むむむ、閃いた! 僕はこの閃きを忘れてしまう前に泥酔ネタ帳に書き記す。

 

「ん、ピーナッツ」
「…………へいへい」

 

 ほら食え、と___くんから差し出されるピーナッツを、ポリポリと食べる水元くんの構図を見て、僕は勢いのままにネタ帳の一ページに書き殴った。

 

(END)―
 真山「水元くん! もっと___くんの側に寄って!」
 水元「オレたちをネタにすんなっつってんだろ!」
 主人公「まやま〜、柿ピーおかわり〜」

 

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対抗策を考えよう

「おはよう」
「おはよー」

 

 親友に告白されてから一ヶ月ほど経った。大学で顔を合わせる時、どうすればいいかとかあれこれ考え、参考書を読み込んで身構えていたのに、いざ会ってみれば普段通りの態度に俺は拍子抜けしてしまった。

 

「(そんなこんなで高校の時と変わらない日々を過ごしているわけで……)」

 

 参考書を読み込んだことでフラグと思わしき接触を避けたり折ったりできているが、それは全て滝本以外のモノたちだ。

 

「(滝本のフラグは、あの日に折れなかったまま、どうにも、宙ぶらりんだ)」

 

 あの日の出来事を滝本は何も言わず、俺から言い出さない限りこれは話題にならないやつじゃないかと焦ってしまう。

 

「(俺から、切り出すのはなぁ……)」

 

 そもそもなんで滝本は俺の返事を聞こうとしないんだ? 普通は聞いてくるだろ? え、そうだよな? 俺なにも答えてないと思うんですけど?

 

「(うーん……)」

 

 うだうだと散らかる思考のまま授業の準備をしていれば、手元が滑って消しゴムが机から落ちそうになって滝本がすかさずキャッチする。

 

「落としたぞ」

 

 ん、といつもの仏頂面で滝本は俺に消しゴムを差し出してきたので変に意識しないように受け取れば、滝本はさらっと俺の頭を軽く撫でた。

 

「しっかりしろよ」

 

 …………いやそれ、ドジな受けに世話を焼く攻めぇ。

 

「(この前も道を歩いてたら車から俺を守るように立つし、飯食ってると何故か嬉しそうな声で「美味いか?」なんて聞いてくるし、前方から人が歩いてきたらそっと俺の肩に手を置いて引き寄せてくるし……!)」

 

 この前なんか、少し頬を赤くして俺のことを意味深な目で見ていた。

 

「(わっかりやす過ぎる……!)」

 

 寧ろなんで俺は今までそんなことに気付かなかったのだろうか? 露骨過ぎるだろ、普通に変だわ、親友に対して向けるソレじゃねぇのよ。

 

「(しかし言葉にして来ないから困る……!)」

 

 どれもこれもサッとやって終わるし、話の流れ的にそんな素振りがないため切り出すのも躊躇われる。

 

「(くそ、こうなったらそんな意味だとは思わなかったってしらばっくれるしかないか)」

 

 好きにも種類がある。俺の好きと滝本の好きの形は違いましたってオチにして、俺が彼女を作るなり巨乳が好きだとか、あの子かわいいよなとか話を振り続ければ、滝本もあの日の出来事を言い出さずにはいられなくなるだろう。

 

「(よし、それでいこう)」

 

 滝本には悪いが俺に告白できて、許されてると勘違いしてもらうぞ……。

 

「(滝本に恨みはないが、俺は絶対にBLにはなりたくないんだ)」

 

 方向性は決まったなと思った今まさに、滝本は意味深な眼差しで俺を見ていた。

 

(END)―
 主人公「(いやマジで露骨〜)」
 滝本「(今日も可愛いな……)」

 

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酔っ払い主人公・椋木編

 その日はいつものようにパソコンの前で作業をしながら、天使サマがご帰宅されるのを待っていた。

 

「(今日は生徒会の用事で大変だった、カミサマのお力になれたのは嬉しいが……、天使サマ、今日は少し遅いな)」

 

 盗聴器を確認する時間もなかった為に、どうなっているのか分かっていない。不安だ、出来ることならすぐにでも場所を特定して天使サマの元へ……と、作業の手が止まった瞬間、玄関が開く音がして俺は思わず立ち上がる。

 

「椋木くーん、ただいまぁ!」

 

 そして勢いよく部屋の扉が開けられ、天使サマがホワホワした顔で俺を呼んできた。

 

「お、おかえりなさい、てん、___さん」

 

 一先ず無事なようで安心したが、どうやらひどく酔っ払っているようだ。誰だ、俺の天使サマをこんなになるまで飲ませたやつは……!

 

「椋木くん、まーたぱそこんの前にいるー」

 

 もう、目に悪いぞ、と言って天使サマが俺のほっぺを両手で包み込んできた。

「て、天使サマ……」

 

 赤い顔をしてご機嫌で笑顔な天使サマ、愛らしいが非常に酒臭く、その手は熱かった。

 

「(しくった、やはりしっかりと盗聴はするべきだったな)」

 

 とにかく今はこれ以上、酔いが酷くならないようにしなければ、明日になって落ち込んでいる姿などできれば見たくない。

 

「___さん、水をお持ちします」
「みずー?」

 

 天使サマをベッドに座らせ、キッチンに向かおうとすれば力いっぱいに腕を掴まれた。

 

「くーらきくん」

 

 そして立ち上がって俺をぎゅっと抱きしめ、今度は俺のほっぺをムニムニと揉んできた。

 

「椋木くんは、大っきいなぁ〜」

 

 あはは、と笑う天使サマ。

 

「(天使サマから、触ってもらえるのは嬉しいが……)」

 

 早く水を飲ませないといけない。しかし天使サマの手を振り払うのは気が引ける。

 

「(天使サマをキッチンまで連れて行った方が早いか……)」

 

 そう思った瞬間、グイッと引っ張られ、不意打ちを食らった俺は天使サマを押し倒すような体勢でベッドに倒れる。

 

「て、天使サマ……?!」
「よーしよし、お兄ちゃんが寝かせてあげるぅ」

 

 よしよしと背中を叩かれ、いい子いい子と頭を撫でられる。

 

「(あ、あわわわわ……!)」

 

 初めてのこと過ぎて俺は頭が真っ白になってしまう。え、あ、ど、どう、あわわ!

 

「よしよし〜」

 

 結局、俺は固まったまま天使サマが眠りにつくまで困惑し続けた。

 

(END)―
 椋木「…………あんなこと俺以外にはしないでください」
 主人公「は、はい(酒を飲むなとは言わないんだな)」

 

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彼は真理を知る

 俺は気付いてしまった、俺は漫画の世界の住人であると。それもただの漫画じゃない、所謂ボーイズラブ漫画の住人であると……!

 

「(そう、思えばおかしな事はいくつもあった、イケメンの比率が異様に高い学内、その割に顔の造りがあやふやな女子たち)」

 

 ここがBL漫画の世界だとすれば説明のいく数々の出来事があった。

 

「(好きな女子の話から抱けそうな男子の話になったりして困惑した記憶があったが、そういうことか……)」

 

 なぜ今まで気付かなかったのだろうか? だとしたら……、俺は気付いた時点で大量のBL本を読み漁った。確かめたい事があるからだ。

 

「(むむむむむ……!)」

 

 談笑中に敵意剥き出しで連れ去る謎の美形男子、やたらチラチラ見てきてよく目が合う友達、犬猿の仲だった二人がある日、妙によそよそしい雰囲気を出していた事……。

 

「(…………体育の着替えで腰細くないか? と心配されること、他の友達と喋ってたら間に割り込んできたこと、女子に遊びに誘われた時、俺を理由に誘いを断った、こと……)」

 

 BL本を読み進めていく度に、これまでの滝本の行動が漫画の攻めキャラ、ドンピシャで俺は手が震えた。

 

「(い、いやいやいや、なんで俺? イケメン同士でやってるもんじゃないのか?)」

 

 俺は平凡でイケメンとは程遠い顔面をしている。というか俺の家系はどこに出しても恥ずかしくない所謂モブだ。

 

「(そんなモブに、男前と言われて女子にモテモテだった滝本が……こ、告白??)」

 

 さっぱりわからない、と思ったが受けカテゴリの一つに「平凡受け」なる文字を見つけて俺は戦慄した。

 

「(マジかよ)」

 

 どこにそんな需要があるんだよと思ったが、少女漫画なんかではポピュラーな設定だったなと妙に納得してしまう。

 

「(じゃあやっぱりあの告白は、マジでそういう意味で、俺のことを、好き……っていう)」

 

 そこまで考えて頭が真っ白になる。滝本が? 友達の滝本が? 確かにちょっと距離が近かった気がしないでもなかったがそんな素振りはあったんだったな、当時の俺は気付いていなかったが……。

 

「(大学でもよろしくなって……)」

 

 同じ大学に受かって、また一緒に勉学に励むのか……? 俺を好きだと告白してきたやつと??

 

「(いや別に滝本のこと、嫌いじゃねーけど、俺は、普通に巨乳の女子が好きだし)」

 

 そう、滝本には悪いが俺はBLにはなりたくないと、そう強く思ってしまった。

 

「(しかし、告白されてから日が経つ、今更どんな顔して会ってどうお断りすればいいんだよ)」

 

 一緒の高校で親友として接してきて、同じ大学で共に通うのに、気まずいったらありゃしない。それは断っても断らなくても同じである。

 

「(と、ともかく! もっと敵(BL)のことを知る必要がある、なんとかして穏便に滝本のフラグを折って回避するんだ……!)」

 

 そう心に決めた俺は、大学が始まるまでの間、ひたすらにBL本を読み漁り続けた。

 

(END)―
 綾人「最近、兄貴が部屋に閉じこもってんだけど」
 父「大学に受かっても勉強してるのか? いいことだな!」

 

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