その神は過保護

ジェミルは立場も弁えずに主神レミエスに怒鳴り込んだ。そんなジェミルの行動にまるで気に止めず本を読むレミエスにジェミルはズカズカと近寄る。副神に注意を受け、しぶしぶ頭を下げる。

 

「主神レミエス様、此度の指示に関してお話があります」

 

いやいやでわざとらしい口調で切り出すジェミルにレミエスは本にしおりを挟み手元に置く。やれやれと言った態度で話を聞く姿勢を取る。

 

「今すぐにこの私をロントスと合流させてください、人界調査に赴きます」

 

そう言うジェミルにレミエスは表情一つ変えずに答える。

 

「その必要性がない」
「なぜですか!!」

 

拳を握りながら悔しげに叫ぶジェミルに、レミエスは分からないといった表情で続ける。

 

「人界調査はロントスが適任だと報告があったではないか」
「まったくもって真実味のない戯言です!テキトーを吐かれただけです!!」

 

今にも机を叩きそうなジェミルに副神はため息をつく。なぜそうまで食い下がるのかと。

 

「分かっていないのですか?!人界に散歩で赴いた神が害された報告があるのですよ?!」
「あぁ、だから調査に行かせた」

 

だから!とジェミルは続ける。

 

「ロントスは神として力が弱いのです!何かあったらどうするんですか!!」

 

そう言われレミエスは副神に尋ねる、尋ねられた副神がレミエスに何かを話すと、レミエスは薄ら笑った。

 

「なるほど、神々の歴史上もっとも弱い貧乏神が居ると噂は聞いていたがあの者がそうなのか」

 

レミエスの態度にジェミルは更に苛立つ。

 

「別に良いではないか、そんな神一つが掛けることがあったとしてなにも影響などない、寧ろヒトと仲良くするのではないか?」
「ふざけるな!」

 

レミエスの言葉にジェミルは机を強く叩き叫ぶ。立場を弁えることなく強く抗議する。

 

「ロントスを何も知らないくせにそんなことを言うなど、この俺が許さないからな!!」

 

ジェミルの態度に驚いたレミエス咎めようとする副神を止め、ジェミルの言葉に耳を傾ける。

 

「お前は何も知らない!私腹を肥やす上部だけの苦労知らず共と同じだ!ロントスは確かに神としての資質は殆どないし、めちゃくちゃ弱い、だがな、だがだ!ロントスは誰よりも努力して鍛え神としての力を会得したんだ!それは非常に弱いかもしれない、だがな、だかだ!知識は誰よりも持ち誰よりも忍耐強い!そして誰よりも信心深くあんたを慕い、自らが得た富も宝もあんたに捧げているんだぞ?!そしてそれはどんな上部だけの物よりも長持ちしあんたの力になっているんだぞ?!!」

 

そこで一旦深呼吸をし、ジェミルは更に畳み掛けるように続ける。

 

「そもそもあんたは自身の力が減ったことに気付いているのか?!俺たち神という種は誰かの信仰によって力を増長させるんだぞ?!神界はあんたの領域だ、だが人界はあんたの領域外だ、つまり領域外に行ったロントスの信仰を失ったお前は、主神としての地位が危ういのかもしれないのだぞ?!もしも、もしもだがロントスに何かあってい、命に関わることがあったなら!どうするんだ?!あぁ!心配だ、俺をロントスの元に行かせろ!連れ戻せとは言わん、俺はロントスの側に行く!!!」

 

いつのまにかレミエスの顔面ギリギリまで凄み圧を持って話すジェミルに、レミエスは思わず笑いが出た。

 

「ほう、あの者は私を強く慕っているのか」
「あ、やば」

 

ジェミルは我に帰るようにハッとして口に手を当てる。しまったと思っても時すでに遅かった。レミエスは立ち上がり不敵に笑う。

 

「なかなかに面白い者のようだ、興味が湧いた、さっそく会いにいこうぞ」
「待て俺も連れて行け!!」

 

副神を連れだってレミエスは窓から飛び出す。ジェミルは慌てて後を追おうとするが、副神に咎められた。

 

「くそぉおおお!!!」

 

その日、主神邸にジェミルの悔しげな叫び声が響き数年の間、笑われることとなる。

 

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