世界の思い通りになんて

 それはお昼の話。昼食を終え、次の授業まで一コマ空いているなと俺はブラブラ当てもなく歩いていた。

 

「(うーん、食堂で時間を潰すか? それとも外に出るか……?)」

 

 どうしようかなー、なんて考えていれば中庭に見知った人物が見えた。あの背中は、滝本だ。俺は可能な限り滝本のフラグを折ろうと行動しているのだが、効果があるのか正直なところさっぱりだ。

 

「(……誰かと一緒か?)」

 

 そう言えば今日は朝に言葉を交わしたきりだったな、と思いながらなんとなく、そうなんとなく忍び寄ってみる。

 

「(あれは……秋人か)」

 

 中庭に置かれているテーブルに腰掛けて何やら楽しそうに会話をしている二人。ああやっているとお似合いだ。

 

「(髪色も違うし背の高さも程々、参考書で見るような組み合わせだ)」

 

 秋人とは大学に通い出してから仲良くなった友達である。出会った当初はそれっぽいフラグを持っていて警戒していたが、秋人は苦学生で無茶しがちなタイプ。つまり属性的に受けだと判断したのでその内にお相手と遭遇するだろうと思っている。

 

「(なんの話をしているのやら……)」

 

 確かめたいが、こそこそと会話を盗み聞きなどめちゃくちゃ怪しいし参考書で見るような行動はやめた方がいい。やめた方がいいのだが、正直な話とても気になる。

 

「(こそこそするくらいなら堂々と声をかけた方がいいか……?)」

 

 そんなことを考えながら少しだけ二人に近付く。それにしても楽しそうだ。なんの話題で盛り上がっているのかは知らないが、コロコロと表情を変える秋人と、仏頂面のわりに周りに花を飛ばしている滝本。

 

「(本当に、参考書で見るような絵面……)」

 

 そんな言葉が浮かんで足が止まる。その瞬間、秋人の顔がこちらに向けられそうになって俺は慌てて物陰に隠れてしまった。

 

「どうした?」
「いや……なんでもない」

 

 そんな声が聞こえて、俺はそのまま気付かれないようにその場から離れた。胸がざわざわする、気持ちが悪い、ぐるぐるする。

 

「(何を考えてるんだよ、落ち着け)」

 

 頭の中に浮かんだ言葉になにを動揺しているんだと頭を掻きむしる。それならそれでいいじゃないかと自分に言い聞かせる。

 

「(あぁ、もう! なんなんだよ)」

 

 俺よりもいいんじゃないかとか、寂しいだとか、意識し過ぎている自分に腹が立つ。

 

「(……滝本は、本当に俺に告白したん、だよな?)」

 

 あの日が夢だったらよかったのにと考えたことがあるのに、何故か今は酷く不安になった。

 

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「じゃあそれで決まりだな!」
「おー、助かった」

 

 話がひと段落して俺は背伸びをする。腕時計を確認してまだ次の授業まで時間があるなと思いながら辺りを見回す。

 

「(うーん、さっきのは気のせいだったか?)」

 

 そんな俺に滝本が首を傾げる。

 

「なにか気になることでも?」
「いや……、さっき誰か居たような気がして」

 

 その言葉に滝本は呆れた声を出す。

 

「昼時なんだ、人の行き来は多いだろう」
「まー、それはそうなんだけど」

 

 ちらっと知ってる顔だった気がするんだよなと思いつつ、滝本のさっきの話を思い出して口角が少し上がってしまう。

 

「それにしても、___って面白いやつだな」
「さっきの話は本人には黙っていてくれよ?」

 

 分かってるって! と言って俺は立ち上がる。

 

「じゃ、___の誕生日プレゼント、買えるといいな」
「あぁ、本当に助かった」

 

 滝本も立ち上がり俺たちは別々の方向に歩き出す。

 

「(そうだ、マサヤたちにも教えてやろう)」

 

 俺も今日、滝本に教えてもらったのだが、友達の誕生日はしっかり祝いたい。驚かせるのもいいかな? なんて考えながら俺はスマホを取り出した。

 

(END)―
 秋人「(それにしても滝本って___のことよく見てるんだなぁ……、面白い話が多くて、ふふ、また笑えてきた)」

 

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