そう思いたいだけ?
滝本に告白されてから、未だに有効打となる行動ができていないそんなある日。部屋の外でバタバタと足音が聞こえてきたかと思えば、俺の部屋の前でピタリと止まり、少し間を置いて小さくノックされた。
「なにー?」
この感じ、母さんや親父ではないな、と思いつつ声を出せばゆっくりと扉が開けられる。
「あ、兄貴……」
やはり綾人か、いつもと違う様子の弟に俺はなんとなく察してしまった。戸惑いのある顔に妙に赤い頬。綾人は俺の部屋に入って扉を閉めると、目を逸らしながら話し出した。
「兄貴、オ……と、友達がさ、ずっと親友だと思ってた奴に告られたらしくて」
その言葉に俺はマジかよと頭を抱えそうになる。そんな分かりやすい態度で相談してくるなよ、勘弁してくれ。
「(兄弟揃って似たような状況になってんじゃねぇーよ)」
誰に対して言ってるのか自分自身さっぱり分からないが、ここは全力で否定しておくべきだろう、綾人の反応的に手遅れな気もするが……。
「あーハイハイ思春期によくある錯覚ね!友情と恋愛のはき違え!気のせい!」
そうだ、そもそも近い距離で接するから勘違いしてしまうんだ。BL漫画の連中とは大体そんな感じなのだ、何回も見た。
「な、なんでそう言い切れるんだよ……!」
「そういうもん、そういうもん」
あっはっはと笑えば綾人が軽く俺のことを蹴った。
「テキトーなこと言いやがって……、こっちは真剣な話してんだよ!気の迷いだって言うのか?」
「そうそう気の迷い、気の迷い……」
綾人の言葉をオウム返しして、あの日の滝本の顔が鮮明に浮かび上がった。
「俺は___のことが好きだ」
真っ直ぐな瞳、振り絞った声、決意を感じさせる表情。考えないようにしていたあの日のことを思い返せば返すほど、真剣だったのだと理解してしまう。
「(俺はあれを……気の迷いって言い切れるのか?)」
友情と恋愛のはき違えだと断言できるのか?
「(いやいや、なにを考えているんだよ。ここはBL漫画の世界だぞ?そういう仕組みなんだよ)」
だから滝本のあれは、そういう風に世界が……。
「…………あ?」
そこまで考えて綾人が俺の顔を覗き込んでいたことに気付く。
「おい、お前なんか隠してるだろ?」
「は?」
ジトっと俺を睨む綾人に変な声が出た。やべ、この流れは……!
「やっぱなんか隠してんだろ?!なんだ、お前もしかして……!」
「え、あー悪い悪い、ちょっと別のこと考えてた」
もしかしてってなんだもしかしてって、兄弟揃って親友に告られたなどと共有してしまったら相当面倒くさいことになる。
「(こうなったら……!)」
俺はすぐさまこの話を終わらせる行動をとった。
「いやほんと、なんも食べてな、あ」
「あぁ?!」
今なんつった?!と綾人が食いつき、キッチンへと猛ダッシュしていった。
「(ふぅ……、都合よく弟のアイス食っといて良かった)」
わりと常習犯なんだが、まぁそんなことはどうでもいい。綾人の前で滝本のことを考えてしまうなんて、何をやっているんだ俺は。
「(でも、相変わらず滝本からあの日の話は出てこない)」
フラグを折りたいのに、誰かにフラグを丸投げすることも失敗続きだし、どうしたものか……。
「(……つーか、あれ本当に現実だったんか?)」
部屋の扉を閉じて寄りかかる。あれが俺の聞き間違いで、今までの滝本の行動が俺の勘違いならばいいのに、なんて考えていれば一階から綾人の叫び声がした。
(END)―
綾人「おいクソ兄貴!てめぇオレの限定アイス食いやがったなぁあ!?」
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