その男、人情家

神を捕まえることに成功したバロアは非常に上機嫌だった。仲間の元に帰り、盛大に喜んだ。

 

「おいおいマジで捕まえたのか?」
「やっぱボスはすごいです!」

 

仲間に賛美を受け、バロアは捕まえた神であるロントスを自慢げに見せびらかした。ロントスは興味津々な目に晒され困惑する。

 

「あの、はじめまして…」
「なに挨拶なんかしてんだ?なんかの術か?」

 

いや、普通の挨拶だよ、と答えるロントスにバロアは疑いの眼差しを向ける。なぜこんなことになっているのか、ロントスはただただ困惑し続ける。手錠をかけられ、支給された日記と帰還の杖を取り上げられ、バロアに連行される。それを見るバロアの仲間たちは歓喜の声を上げ続ける。

 

「一先ずこの建物にぶち込んでおくぞ、おいロジー、鍵はどこだ?」

 

そこそこ綺麗な建物の前で立ち止まりバロアが少し離れる。抵抗は無駄だろうとロントスは大人しく待っていると、3人の子供がロントスの足元へとやってくる。こちらを興味津々に見ると話しかけてきた。

 

「お兄さんが神様なの?」
「大地割っちゃうことができるの?」
「僕らの願いなんでも叶えられるの?」

 

畳み掛けるように質問攻めに合うロントスは、その内容に苦笑いを浮かべた。3人とも神様はなんでもできる、という認識を持っているようで、ありがちな間違いを正そうと否定した。

 

「確かに僕は神だよ、でも君たちの言うようなことはできない」
「できないの?」

 

なんで?という顔をした子供たちに優しく答える。

 

「そうだね、役割があるんだよ。水は燃えないし、木は光ることができないだろう?神っていうのは名称だし、そもそもなんでもできたらこうして捕まってないし…」
「おいおいおい、オレらの宝になにを吹き込もうとしてんだ!」

 

ロントスが言いかけてバロアに遮られる。子供たちを捕まえ優しく頭を撫でるバロアに、ロントスは吹き込もうなんてしていないと答える。

 

「僕ら神について間違った認識をしていたから、正しい知識をと…」
「間違った認識ぃ?」

 

どんな認識だ、とバロアは怪訝な顔をしてロントスを見やる。ロントスは臆することなく説明をする。

 

「そもそも僕らは神という名の種族であり、君たちが思い浮かべるような創世主じゃないんだ」
「なんだとぉ?」

 

じゃあなんだ?というバロアと子供たちに、ロントスはわかりやすく伝えようと言葉を選びながら説明を続ける。

 

「君たちヒトの中には、力、魔法が使えるヒトがたまにいると思うんだけど、神はそれの上位的な種なんだ。あと生まれた場所が違うね」
「…それで?」
「神という種は神と呼ばれる力を扱える素質を持つんだけど、それはヒトの魔法使いと基本的には違はないよ。ただ持てる魔法が違うって認識で大丈夫かな?ただ神は生まれた系統によってその力の方向性がガラリと変わるのが特徴かな」

 

どんな特徴なの?と子供たちが楽しそうに質問をしてくる。

 

「例えば僕の幼なじみは富の神の系統でね、魔力を金銀やお金にすることができるんだ。他には水を生み出したり、風を起こしたり、1番すごいのは別の空間を生み出してしまうことかな」
「お前さんはなにができるんだ?」

 

バロアの言葉にロントスは言葉が詰まった。なんて言おうか、と視線を外して気がつくと、沢山のヒトがロントスの話を楽しそうに聞いていた。尚更言いにくい、と思いながらもバロアや子供たちに急かされ、恐る恐る答える。

 

「しょ…」
「しょ?」
「初歩的な治癒と補助…」

 

それを聞いたバロアと仲間たちが顔を見合わせる。本当にこいつ神だよな?と疑うものもいれば、初歩的とはどこまでをいうのだ?という者までさまざまな反応をする。

 

「そういやお前さんはなんで降りてきたんだ?」
「人界が騒がしいから人界調査をしてこいと…」

 

たった1人でか?という問いにロントスは素直に頷いた。

 

「まぁそもそも僕は、神の中で歴史上もっとも弱い貧乏神なんて呼ばれてたからね、ははは」

 

明るく振る舞うロントスに、バロアは思わず目頭を抑えた、そして、こいつは同胞に見捨てられ人界に放り出されたのだと解釈をした。

 

「お、お前…そうだったのか…!神ってやつは本当にロクデナシばっかだな!!」
「えぇ…?そんなことは…」

 

平和ボケしてる神は確かにいるけど、と言うロントスの言葉を聞かず、バロアはロントスの手錠を外してやる。その行動にどうしたのだろうかと困惑していると、他のヒトたちも可哀想なモノを見る目でこちらを見てくる。

 

「お前さん、乱暴なことして悪かった!今日からここを我が家だと思って過ごしてくれ!共に神共をぎゃふんと言わせてやろうじゃねぇか!」

 

肩を組まれ天に指を刺すバロアに、ロントスはどういうことなのか分からずただひたすらに困惑し続けるのであった。

 

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