その神は落ちる

神が住う神界とヒトの住う人界。強い力を生まれ持った神々が住う神界に於いて、その素質が低いロントスは周りから笑われていた。強い力を持たず、他の神よりも圧倒的に質素な暮らし。ヒソヒソと陰口を言われているのをロントスは知っていた。

 

「気にすることなどないぞ」

 

そう声をかける相手は富を司る神ジェミル。ロントスよりも遥かに強い力を生まれ持った幼なじみだ。昔から周りに比較され、さまざまな施しを受けてきたロントスは劣等感を持っていた。今着ている服だってジェミルから貰ったものだ。

 

「気にしてはいない」

 

そう言いつつもいい気分ではないのは確かだ。主神の呼びかけを受け、ロントスとジェミルは主神邸に他の神たちと共に赴く。一体どうしたのだろうかと、ロントスは居心地の悪さを感じながら、主神レミエスの言葉を聞く。

 

「よくぞ集まった、手短に済ませよう。ここ最近、人界が騒がしく、何やら害を受けたという神々がいると報告があった。人界の詳しい様子を誰か調べてほしい」

 

レミエスの言葉に多くの神は困惑した。人界になど行きたくないとさっさと帰る神が殆どだ。レミエスの隣に立つ副神が声を上げる。

 

「まったく…残った神たちの中から誰かを、人界調査に向かわせますからね」

 

名乗りを上げるものはおりませんか?と聞く副神にジェミルは俺たちも帰るか?と聞いてくる。そんな気はないが…と思っていると、人界調査にはロントスが適任だ、と誰かが告げる。それにジェミルはふざけるなと怒る。

 

「ほう、ロントスか、ならばその神を人界調査に向かわせよう」

 

それを聞いたレミエスは高台から飛び、ロントスの目の前に降りる。最高神であるレミエスを間近にしたことなど一度もなかったロントスは内心、焦りとあまりの美しさに見惚れていた。

 

「ま、待て、待ってください主神レミエス様!」
「なんだ富の神ジェミル、人界調査に富は不要だろう」

 

ジェミルの言葉を聞く耳を持たず、レミエスはロントスの肩に手を置きにっこりと微笑む。

 

「では頼んだぞ」

 

ただ一言、そういうと飛び立ち帰ってしまう。入れ替わりに副神がやってきてロントスの手を引く。ジェミルは慌ててついていこうとするが、副神がそれを許さなかった。副神に連れられ、まっさらな日記帳を渡される。人界の詳しい様子をそこに記せと言われ、帰還するための杖も貰う。ではお気をつけて、とだけ言われロントスは人界に放り出された。

 

文字通り人界に落ちるロントスは着地をミスり盛大にコケる。いたたと起き上がると、複数のヒトに囲まれていた。

 

「は、はじめまして…?」

 

困惑気味に挨拶をするが、柄の悪そうなヒトたちに蹴られ、集団で襲われそうになりロントスは慌てて逃げ出す。神でありながら力は弱いロントスは人界がどこを見渡しても荒廃していることに気が付き胸を痛める。逃げたはいいものの行き止まりに来てしまい、追い詰められる。

 

「お、落ち着いてほしい、何が望みだろうか?」
「金目のもん全て置いてけ!」

 

高価な身なりが問題だったかとロントスは気がつく、問答無用で襲ってくるヒトに、身構えたその時、助けが入る。

 

「おいてめぇら!そこまでだぜ!」
「お、お前は…!」

 

塀の上から現れた、黒いサングラスが特徴的な男性をみたヒトは一目散に逃げていった。軽々と飛び降りたサングラスの男は、ロントスに手を差し出す。その手を掴み立ち上がるロントスの胸に光るネックレスを見てサングラスの男はしかめっ面になった。

 

「お前…もしかして神か?」
「あ、あぁ、そうだよ」

 

素直に答えるとサングラスの男はそのサングラスを外し、怖い顔でロントスを睨む。何か選択を間違えたかとロントスは敵意はないと示すが、サングラスの男は悪態を吐いた。

 

「神かよ、助けなきゃ良かったぜ、まぁいい、俺の名はバロア、てめぇら神に喧嘩を売った男だ」

 

バロアがそう言うと指パッチンをする。それを合図とばかりに塀の上からヒトがたくさん現れロントスに武器を向ける。

 

「同胞が人質になりゃ今度こそ相手にしてくれるだろうよぉ?」
「…へ?」

 

神でありながら力の弱いロントスは、いともたやすくヒトに捕まってしまった。

 

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