秀才VS綾人2

 それは学園祭当日の話。学園祭前も激務だったが、当日もやることが沢山ある。

 

「(生徒会長は、顔色ひとつ変えてないな……)」

 

 流石だ、とはいえ前回のこともある。綾人くんからちゃんと気付いてやれ、と言われたのでなるべく確認しているが、今は問題なさそうである。

 

「ねー先輩? 見過ぎじゃないですぅ?」
「不敬だぞ……」

 

 生徒会長の後を一緒に歩いていた河相くんと椋木くんが左右から小声でそんなことを言ってくる。

 

「君たち……、前回のこともあるんだからしっかり僕らが見ていないと」
「そんなこと言ってぇ、見たいだけじゃないんですかぁ?」

 

 そんなことはない! と言いそうになって見知った声が耳に入ってきた。

 

「あ、東條くん、それに秀才くんだ」
「……!」

 

 ___さん! 来ていたのですね、と駆け寄りたいですが生徒会長の前ですし、業務中ですのでぐっと堪えて挨拶をする。

 

「お兄さん、こんにちは」
「こんにちはです」

 

 ペコリと頭を下げれば、___さんが苦笑いをする。

 

「……東條くんは劇に出なかったんだね」
「えぇ、生徒会でちょっと忙しくて……」

 

 そう笑う生徒会長に、___さんは俺の方に目を向けた。そしてまた苦笑い。

 

「そお……、大変だったねぇ……」
「はい、お兄さんは綾人の劇を見に来たんですか?」

 

 生徒会長の問いかけに___さんはビデオカメラを取り出して笑った。

 

「そうそう、祖母から綾人の劇が見たいから撮影してきてと頼まれてねぇ」

 

 今度、東條くんも見る? と聞いてくる___さんに生徒会長が嬉しそうに笑った。そんな会話を微笑ましげに眺めていれば俺の隣に居る二人が恨めしげに___さんを睨んでいた。

 

「チッ、あの平凡野郎の身内か」
「俗物が、俺のメシアに馴れ馴れしい……!」

 

 二人とも小声だが敵意に満ちた眼差しを___さんに向けていて俺はいい気がしなかった。

 

「……あの、良ければ学園祭の案内をしましょうか?」
「え?」

 

 ___さんの前に立ち、俺は提案する。

 

「見回りも手分けした方が効率がいいでしょうし、どうでしょう生徒会長?」
「そうだね……」

 

 ふむ、と考え込む仕草をする生徒会長。時間を確認した生徒会長が休憩もするべきかなと呟けばふわりと笑った。

 

「うん、生徒会の仕事もひと段落したし君たちは休憩するといいよ」
「い、いえ生徒会長! それは……!」

 

 流石に僕たちだけ休憩なんてできないと言いかけて俺の背後から綾人くんが現れた。

 

「そーだぞ東條! お前も休憩しろ!」
「綾人……!」

 

 腕を組み不機嫌そうな顔をした綾人くんが俺を見る。

 

「ほら、もっと言ってやれ」
「……!」

 

 その言葉に俺は生徒会長も休みましょうと強く言えば、河相くんと椋木くんも強く同意した。

 

「そ、そうかい? じゃあ……そうしようか」
「そうだそうだ!」

 

 そうと決まれば行くぞ! と綾人くんが生徒会長の手を掴む。

 

「俺は甘いもんが食いてーんだよ! 奢れよな兄貴!」
「えー?」

 

 嫌そうな顔をしつつ___さんはしょうがないなぁ、と歩き出した。その光景をポカンと見ていれば綾人くんが立ち止まって振り返った。

 

「…………来ねぇのかよ?」
「……! はい、行きます!」

 

 笑顔でそう答えて後を追えば、河相くんと椋木くんが抗議の声をあげながらついて来た。

 

(END)―
 河相「あーん、東條先輩! 僕も一緒に行きますぅ!」
 椋木「許さん許さん……!」
 綾人「うるせー! ついて来んな!」

 

 おまけ

 

「ありがとう綾人くん」
「はぁ?」

 

 活気に満ちた校舎から出て、人気の少ないベンチに腰掛けて兄貴に奢らせた練乳たっぷりのかき氷を食べていれば秀才がそう言ってきた。

 

「同行を許してくれたじゃないですか」
「……兄貴を連れ回そうとしたくせに」

 

 それは……、と言うと少し小声になってオレに耳打ちしてきた。

 

「……はぁ?!」

 

 その内容にオレが驚けば東條がどうしたの? と聞いてきた。

 

「いや、別になんでもねぇよ」

 

 そう答えれば兄貴がしらーっとした目でこちらを見てきた。

 

「…………なんだよ!」
「いや、なんでもない」

 

 なんだよ! と思いつつ秀才に視線を戻す。

 

「……兄貴になんかあったら許さねぇからな!」
「勿論だよ!」

 

 てめーにも言ってんだからな! オレはまだ許してねぇんだからな?! これはお前のことを見張ってんだからな!? と小声で畳み掛けても秀才は何故か嬉しそうに笑っている。

 

「綾人、いつのまに秀才くんと仲良くなったの?」
「仲良くなんかねーよ!!」

 

 東條の問いに大声で否定してオレはかき氷をかけ込み、頭が痛くなった。

 

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