宣戦布告?

「朝だよー!起きろー!」

 

カンカンカンと甲高い鉄音が鳴り響く中、ロントスは目を覚ます。いつの間にか歓迎パーティーをされ、何故か好意的に迎え入れてもらったロントスは、なぜなのかバロアの家に居候することとなった。

 

「おうおう、もうそんな時間かぁ?」

 

くぁーと背伸びとあくびをするバロアにつられてロントスもあくびをしながら起き上がる。美味しそうな匂いの元へと向かうと、朝食が用意されていた。さぁさぁ神様どうぞ、と勧められ、大勢が集まる食堂の明らかに偉いヒトが座るであろう椅子に座らされる。本来はバロアが座っていたのだろうと憶測でき、当然の如く隣にバロアが座った。

 

「冷めねぇうちに食っちまおうぜ」

 

いただくぜー!と言うバロアの言葉を合図にヒトたちが一斉に食事を始める。ロントスは気圧されながらも食事を口に運ぶ。

 

「わぁ…、誰かに作ってもらえる料理って良いね…」

 

美味しい、と嬉しそうなロントスに、なぜか複数のヒトたちが可哀想なモノを見る目で見てくる。辛かったんだね、などと慰めてくる者もいて、何か盛大に勘違いされているとロントスは困った。

 

「神の食事ってどんなんだ?」
「特に変わらないと思うけど…、フルーツが主食な神が多いかな。料理は娯楽扱いだね…」

 

フルーツを主食にできるなんてやっぱ神は贅沢だな!とバロアは悪態をつく。ロントスお兄さんもそうなの?と昨日の子供が訪ねてくる。

 

「僕の場合は力の回復のために、食べられるものは好き嫌いせずに食べてたよ」
「苦労したんだなぁ!」

 

バンバンとバロアに背中を叩かれロントスは苦笑いをする。敵対的な態度をしていたバロアに好かれ、同情されている現状にどうしたものかと、勘違いをどう解いたものかと頭を抱える。朝食を食べ終えるとバロアが見せたいものがあると返事も聞かずにロントスを引っ張り歩き出す。なんだろうかと考えていると、高い建物の中に入り、梯子を登っていく。ついて来るようバロアが促すので、ロントスも梯子を登る。建物の最上階へとたどり着くと、とても見晴らしの良い風景に、ロントスは見惚れた。

 

「どうだ、綺麗だろぉ?」
「はい」

 

建物の前方にはだだっ広い草原が広がっていた、太陽の光に当てられ、風で揺れるたびに光の帯が流れていく、ふと後ろを振り返ってみると荒廃している土地が広がっていた。するとバロアがそっちは見るじゃねぇよとムスッとした。

 

「あっちは幾度の戦いですっかりダメになっちまった土地だ。神様よ、俺らはあの緑も守りたいんだよ」

 

そう言いながら草原の方を指差すバロアの目は黒いサングラスで見えないが、なぜだが真剣な眼差し、と言うやつなのだろうとロントスは感じとった。どこまで続いているのかわからない草原が、目の前にある限りだとしたなら、降りて来る時の風景はどうだっただろうか、とロントスは不安になった。

 

「そういえば、神に喧嘩を売った、と言っていたよね」
「おう、俺らを放ったらかしにする神共に、俺は喧嘩売ったんだ、無視されたがな」

 

いったい人界では何が起こっているんだい?とロントスが聞くと、バロアは心なしか嬉しそうに答えた。

 

「戦争だよ戦争、領土だの食料だの、金なんかも、色んなものを巡って争いが絶えねぇんだ」

 

バロアはロントスの肩に手を置くとサングラスは外して頭を下げる。

 

「神様よぉ、どうか一緒に守ってくれねぇか?あの緑も、オレらの宝である新しい命も、ただ生きていける平和を掴むために」

 

ロントスは荒廃した土地に目を向ける。荒れ果てた建物は崩れて色をなくしている。主神レミエスに託された人界での調査、神が害を受けた原因をなんとかできれば、きっとお喜びになる。なによりも困っているヒトを放ってはおけない。ロントスはバロアの肩を優しく叩く。

 

僕にできることなんてたかが知れているだろうけど、協力させてくれ」

 

優しく微笑むロントスにバロアはあまりの嬉しさにガバッとロントスを抱きしめる。ぐぇぇ、とロントスが声を上げても気にせずバロアは感謝の言葉を述べた。

 

「ありがてぇ、ありがてぇよ!じゃあ早速、他の神に伝えてくれ!このバロアは神に宣戦布告をするってな!」
「いや待ってなんで????」

 

慌てるロントスをほっぽってバロアは下にいるヒトたちに向かって神に宣戦布告するぞぉ!と叫ぶ。歓喜するヒトたちの声に、ロントスは両手を頭に当て、なんでなんだと心の中で大絶叫した。

 

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