面白さは何よりも優先される

なぜか神に宣戦布告をするヒト、バロアに好かれてしまったロントスを、遠目から見守る主神レミエスと副神。会話の内容に思わず大声で笑いそうになるのを我慢するレミエスに、副神アイラがどうしますか?と問いかける。

 

「いや、これはなんとも面白い。私たち神に喧嘩を売ったヒトの話など報告されていなかった。いい暇つぶしになろう」

 

くくくっと笑いを抑えるレミエスとは対照的に、アイラは知られてしまったとため息をつく。

 

「見よ副神よ、富の神の報告通りあのロントスと言う神は、ヒトの言葉に対しても面白い反応を示すぞ」

 

心底楽しそうに微笑むレミエスにアイラは小さく咳払いをして忠告をする。

 

「お楽しみのところ失礼しますが、あまり長居せぬようお気をつけ下さい」

 

神界は主神レミエス様のお力で存在するのですから、と言うアイラにレミエスは心配無用、と笑う。

 

「私は主神となるべく生まれた神だ、それに私たち神は信仰心でその力を増すのだ、感じるぞ、あのロントスと言う神は真に私を信仰している。あのものの側にいれば問題などない」

 

その言葉にアイラは驚く、まさか…と声をもらすアイラに対し、レミエスは胸に手を当て自信満々に告げる。

 

「私もロントスの元へ行こう。あの者共はさぞ私たちを楽しませてくれるだろう!」

 

そう言い飛び立つレミエスに、アイラはやっぱりこうなるのか、と妙に納得した顔でそれを見送る。しかしあのまま放っておくと問題もあるだろうと考え、副神はすぐに神界へと戻った。

 

「だいたいの案内は終わったな!今日は自由に過ごしたらいいぜ」

 

バロアに集落を案内され終わり、ロントスは疲れ気味だった。とにかく事情をもう少し聞かなければと思いバロアに質問をしようとすると、昨日ロジーと呼ばれていた青年がバロアに話しかけそのまま何処かへ行ってしまう。慌てて追いかけようとしたが、予期せぬ神の声にロントスは背筋がピンとした。

 

「話は聞かせてもらったぞ」
「え?あ?!しゅ、主神れ、れれれれレミエスさま?!」

 

ロントスの慌てっぷりにレミエスは大変機嫌良く微笑む。そのあまりの眩しさにロントスは言葉を失う。

 

「ジェミルからの報告を聞き、いま私はここに来たぞ」
「じぇ、ジェミルからでございますか…?」

 

いったいどんな報告をしたのだろう、もしかして人界調査を変われとかそういうものだろうか、ロントスは自分に与えられたまたとない役目が奪われるのではないかと少し身構えるが、レミエスは心底嬉しそうにロントスに話す。

 

「実に楽しいことになっているではないか、昨日からの事情を報告するがいい」
「は、はい!ですが、その…」

 

神々しいまさに主神たるお姿は、ここのヒトたちにはかなりまずい、幸い今はまだ誰にも気付かれていないようだが、すぐにでもバロアや他のヒトが来るかもしれない。ロントスは意を決して人目のつかないところへレミエスを連れて行く。

 

「手短になりますが、報告いたします。その、かくかくしかじか…」
「ふむふむ、ヒトとはなんと好戦的なのだ、面白いな、戦争か…、それで散歩に来た神が害を受けたと…」

 

そうでございます、と首を垂れるロントスに、レミエスは顔をあげよとロントスの顎を上げる。そして不敵な笑みでロントスに告げる。

 

「してロントスよ、あのヒト共と一緒に私たち神に宣戦布告をするのか?」
「い、いえいえいえ!!そのようなことは、決して!いたしません!!!」

 

あわあわと声を大にして叫び慌てるロントスに、レミエスは本当に楽しそうに笑う。冗談だと告げるレミエスだが、ロントスは生きた心地がしない。

 

「おーい、神様よぉ、どーした?」

 

まずい、ロントスの叫び声に気が付いたバロアがこちらに近づいて来るとロントスはすぐに理解した。主神レミエス様はまさにバロアたちが敵視している主神そのもの、バレるわけにはいかない、しかし彼らの力にもなりたい。ロントスは慌ててレミエス上着を脱ぐよう頭を下げる。いったいそれになんの意味があるのかと、レミエスは不思議に思うが、面白そうだと言う理由で上着を脱ぐ。

 

「ん、誰だそいつはぁ?」

 

ぎこちない笑みでバロアに笑いかけるロントスと、側にいるレミエスに警戒の眼差しを向けるバロア、レミエスは涼しい顔をしている。

 

「か、彼は、昨日話した知り合いの神です!ぼ、僕が心配になって様子を見に来たようでして…!」

 

苦しみ混じりの引きつった声で説明をするロントスに、レミエスは笑いを堪える。神、と言う言葉にバロアは会ったばかりのような態度でレミエスを睨む。

 

「知り合いの神だぁ?幼なじみの富の神ってやつか?」
「いえ、それとは違う神です」

 

バロアの問いかけに即答する。真剣な表情で言うものだからバロアは少し臆する。しかしすぐにレミエスをまたジロジロと見る。やけに神々しいようにも見えるが、ロントスと同じような服を着ていることでなにかを納得したようで、バロアは笑う。

 

「そうか、神さんにも親しい友がいたんだな…、ならあんたも迎え入れるぜ!」
「迎え入れるとな?」

 

警戒心が強いのかちょろいのかわからないが、バロアはロントスの知り合いだからと言う理由でレミエスに歓迎ムード全開で接し始める。そんなバロアにレミエスは不思議そうな顔でロントスに目をやる。すると驚愕の表情をしたロントスを見て思わず笑いそうになった。

 

「む、むむむ、迎え入れるって…、ど、どどどう言う…!」
「神さんの知り合いなら悪い奴はいねぇだろ!あんたもオレらと一緒に腐った神共と戦おうぜ!!」

 

あわわわ、と慌てふためくロントスと、やる気満々なバロアにレミエスは大変機嫌良く返事をした。

 

「良いぞ」
「良くないですよ????」

 

なぜが手を取り合う主神レミエスとバロアに、ロントスは頭を抱えて膝をついた。

 

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