奇妙な状況
「そういや神さんの名前聞いてなかったな、あんたら名前なんてーんだ?」
バロアの質問にロントスは血の気がサーっと引いていった。ヒトは主神の名前をご存知なのだろうか?知っていたら大変まずいのではないか?どうにか誤魔化さないとと思ったロントスの苦悩とは裏腹に、レミエスは気にすることなくさっくりと名乗った。
「この者はロントス、そして私はレミエスだ」
あー、あー!主神レミエスさまぁあ!と心の中で悶えるロントスをほっぽってレミエスはバロアと会話を続ける。
「神さんはロントスで、その友はレミエスな、いい名前じゃねーか」
ははは!と笑うバロアに、主神の名前は知られていないのか、とホッとする反面、人界に主神の威光が届いていないことにモヤモヤした。今すぐに言ってしまいたい、と言う気持ちを抑え、ロントスは友と2人で話がしたいとお願いし、席を外してもらう。
「すみません」
「いーっていーって!存分に話をしな!」
すっかり信用しきっているバロアが部屋を出る。外に出たことをロントスは確認してから、小声でレミエスに話しかける。
「あの、申し訳ございませんでした…!こ、こんなことに付き合わせてしまい…」
「なにを言う、ヒトとは見た目で判断するのだなと勉強になったぞ」
ふふふ、と思い出し笑いをするレミエスに、ロントスは気分を害されていないことにホッとする。これ以上ことがややこしくなる前にどうかおかえりになさってください、と言うロントスに、レミエスはなにを言っているのだ?と不思議そうに頭を傾げる。
「私もロントスと共に人界調査を進めるぞ」
最大の推しに名前を呼ばれたロントスはあまりの出来事に目が点になる。それはもうめちゃくちゃに尊敬するあの主神がなぜか自分に話しかけ好意的に笑いかけてくる。面白そうだからという理由なのは理解しているがそれでも自分に、貧乏神と笑われている自分に接してくれている!と今更ながら現状を理解したロントスは途端にしどろもどろになる。
「…へ、あ、いや、そんな、だ、だめで…」
「私の決めたことに不服を申すか?」
「いえ全くそのようなことはございません!!」
余裕な笑みを浮かべるレミエスに、ロントスは即答する。それで良い、という顔のレミエスに、しかしどうにかしないとまずい…と、ロントスは頭を抱える。そうだ、話を合わせて誤魔化すんだ…!とロントスは覚悟を決める。
「れ、レミエスさま、ご、ご無礼を承知で申し上げます!彼らヒトにレミエスさまの正体がバレてはなりません、その…ですから…」
「ロントスの友という体であの者共を騙せば良いのであろう?」
騙す、という言葉に良心を痛めつつもロントスはゆっくりと頷く。恐る恐る、非常に申し訳なさそうにロントスは発言をする。
「と、友という関係である以上、その、た、タメ口のような話し方を、しなければなりませんが…」
大量の汗をかき、自身の発言に後悔をしつつもそうしなければ怪しまれる!と苦渋の決断をするロントスに、レミエスは非常に軽く答える。
「うむ、しかしどうせならば本当に友になってしまえば良いのではないか?なぁロントスよ」
「え?」
ずいっと不敵に笑いながらレミエスがロントスに詰め寄る。間近に推しが迫ってきたことにロントスは頭が真っ白になる。
「ふふふ、そなたはコロコロと表情が変わるな?実に面白い」
「い…」
わなわなと震えるロントスに、レミエスは首を傾げる。何か言ったか?と問うと、ロントスは大声で叫んだ。
「いけません!!!僕にとってのレミエスさまは憧れの推しなのです!!!僕と同等であってはいけないのですぅう!!!」
キッパリとそう言われ、レミエスはポカンとする。ジェミルの時のように早口で述べるロントスにレミエスは腹を抱えて大笑いをした。笑われたことに気付いたロントスは慌てて誤魔化そうとするが、やはり時すでに遅し。
「良い、実に良い!ではそのスタンスで行こうではないか!」
「えぇ?!」
本当に心底楽しそうに笑うレミエスの笑顔に内心狂喜乱舞しているロントスは、どういうことなのか分からずおどおどする。
「おぅ、なんだどうしたロントスよぉ?!」
「うむ、話に熱が入ってしまってな」
ロントスの大声に気付いたバロアが、どたどたと部屋に入ってきた。レミエスは涼しい顔で爽やかに笑うが、ロントスはぎこちない笑顔で誤魔化す。バロアはそうか!そういうのわかるぜ!と笑う。
「おう、そうだ!レミエスお前さんにもここの案内をしようじゃないか」
「おお、では頼んだぞ」
なぜかもう既に仲良さそうに笑い合う2人に、ロントスはいつものように頭を抱え、その場に倒れた。
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