不安な朝

カンカンカン、昨日と同じように鉄音が響き、目を覚ます。むくりと起き上がり背伸びをする。ぼやっとした意識でふと隣に目をやって布団から飛び出し声の出ない悲鳴を上げる。

 

「ん?朝か」

 

煌びやかに神々しくあらせられる主神レミエスがロントスの隣で寝ていたようで、目を覚ましたレミエスはどんな行動をしようが優雅である。心臓が止まるくらいにバックバクと心音がロントスの中で鳴り響く。お、推しが隣で寝とるー!!!とロントスは驚愕した。そういえば昨日は、部屋を用意してもらって、同じ部屋で、でもレミエスさまにはベットで寝てもらってたはずで…とロントスは完全に目が覚めた頭でぐるぐると思考する。

 

「ロントスよ」
「は、はい!おはようございます、レミエスさ」
「私たちは友だぞ?」

 

レミエスさまと言いかけてレミエスがそれを阻止する。苦しみ紛れにさん付けで誤魔化し、ロントスはわたわたと身嗜みを正す。レミエスは特に気にも止めず、立ち上がり背伸びをする。

 

「ふむ、布団とやらで寝るのもなかなかに良いではないか」

 

どうやら布団で寝たことがなかったらしく、物珍しさでロントスの隣で寝たようだ。心臓に悪い、とロントスは未だバクバクと鳴り響く心臓の音を落ち着かせようと深呼吸をしていると、バロアが部屋に顔を覗かせる。

 

「ほらほら神さんたち、ご飯できてっぞー」
「は、はい!」

 

いやちょっとまて、あの主神レミエスさまに、主食のフルーツ以外を食べさせていいのか?とロントスはハッとする。しかしレミエスはヒトの食事が楽しみなようで楽しそうに部屋を出ていく。慌ててロントスも後を追い、昨日と同じ席に座る。レミエスの席も用意されていて、昨日と違って朝食にリンゴが置いてあった。マジマジと見ていると、バロアが照れくさそうに笑う。

 

「神さんの主食はフルーツなんだろ?用意できんのはそれくらいでなぁ」
「贅沢品なのでは…?」

 

おう、気にすんな!と笑うバロアと周りの人たちに、ロントスが感動していると、レミエスが徐にリンゴを手に取り微笑む。

 

「リンゴではないか、私の好物だ。いただこう」

 

楽しそうに食事を食べ始めたレミエスに続き、ロントスも食べる。初めての体験をするという感じのレミエスに、ロントスは何度か見惚れていたりした。

 

「料理とはなかなか良いものだな」
「そうだろう?」

 

どうやって作っているのだ?とレミエスが問いかけると、厨房の方に向かってバロアが叫ぶ、すると数人の女性たちが現れた。

 

「おう、レンラ!この神さんのレミエスがよ、料理はどうやって作ってるのかだってよ!」
「なんだい見学するかい?」

 

お昼の仕込みがあるからおいでよ、と手招きされレミエスは迷いなくそちらへ向かう。ロントスは一瞬止めに入ろうと考えたが、推しの楽しみを奪うのはどうかと思い留まる。

 

「なぁロントス、頼みてぇことがあんだけどよ」

 

レミエスについて行こうと立ち上がってすぐにバロアに捕まる。正直レミエスを放っておくのはまずいのだが、バロアの真剣そうな声に、ロントスは苦笑いで頷いた。集落にある作戦会議室のような建物に入ると、沢山の資料のような紙が散在していた。

 

「実はなぁ明日、オレら敵対してる連中とやり合うことになってんだ」
「や、やり合う…?交戦するということですか?!」
「そう言ってんだろ?」

 

バロアの言葉にロントスはわなわなと握った拳を震わせる。確かに戦争をしているとは聞いていたが、まさかすぐに切り出されるとは思ってもみなかった、とロントスは驚く。

 

「頼みてぇことってのがよ、オレらのとこにゃ、治癒が使えるやつがいねぇのさ」
「だから、僕にしてほしいと…?」

 

そうだ!とバロアは手を叩き明るく笑う。そういえばとロントスは聞きたかったことを尋ねる。

 

「そういえば、バロアたちはどんな相手と戦っているんだい?」

 

まだ話してなかったか、とバロアは椅子にどっかりと座り、肘をつく。

 

「オレらが戦ってるのは国の成れの果てよ、もう滅んじまってるのにそれを認めず、悪あがきして、オレらを拘束しようとしてくる」
「国の成れの果て?」

 

乾いた笑いをするバロアは壁にかけられている地図を指差す。

 

「この地図の真ん中が今いるオレらの集落だ、南はまだ緑があるが、北の方は見ただろ、荒廃してんのよ。そのもっともっと上に国の成れの果てがある、国家も無くなって、人を纏められねぇし纏まらない、そんな無法地帯があってな」

 

そこで息を吐き、ロントスの方へ顔を向ける。

 

「自由を追い求めすぎて、ルールもなんもぶっ壊れちまった。力のない奴がみーんなひどい目に遭い、武力を持った奴らが正義みたいになってな。オレはどっちかといや国家側だったが今となっちゃそんなのどうだっていい。まだ緑豊かな南にそんな危ない奴らを通すわけにはいかねぇのよ」

 

他の国に迷惑かけさせるわけにゃいかねぇ、と語るバロアにロントスは胸を痛めた。地図はまだ繁栄していた時のものだろう、ここら一帯は沢山の街があったことを物語っていた。

 

「どうやって交戦するのですか?」

 

ロントスの問いに、バロアはニカっと笑って立ち上がる。地図を見せ指でなぞりながら説明をする。

 

「いいか、情報によれば明日の昼頃にあいつらはこの道を通って南へ降ろうとする。オレらは地の利を生かして奇襲をかける!お前さんは怪我した仲間を治癒してってくれ」

 

集落の守りは良いのですか?とロントスが尋ねると、バロアは上手くやれてるから気にすんな、と笑う。レミエスは勝手についてきそうだし、しっかり状況を把握しなければ、とロントスは決意を固めた。

 

「よっしゃ、明日は頼むぜロントス!」
「あの、微力ながらの手助けだからね、そこだけは…」
「わーってるって!」

 

ははは!と背中をバンバンと叩き笑うバロアに、ロントスは少し不安を持ちつつも、その日の夜を過ごした。

 

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