苦悩は続く
これは少し前の話、副神アイラは主神レミエスを人界に連れ帰ることなく神界へと帰還する。そして真っ先に富の神ジェミルの元へとやってきた。
「富の神よ、話がある」
ロントスと離れ離れになってふてくされていたジェミルが、アイラの訪問に勢いよく応じる。
「なんだ?!人界へ赴くことを許可してくれるのか?!」
食い気味に話すジェミルの顔を手で押しのけ、アイラは淡々と述べる。
「単刀直入に言えばそう言うことだ、ただし条件がある」
どんな条件だろうがのもう!とジェミルはやる気満々で答える。アイラは少し口元を緩ませると、条件を提示する、それを聞いたジェミルは顔を引きつらせた。
「と、言うわけでレミエス様が本来やるべき仕事を代わりに終わらせてきたと言うことだっ!!!」
「まさかこの短期間に全て終わらせるとは思いませんでした」
バロアが提供してくれたロントスとレミエスの自室で、ジェミルはここに来る経緯を話す。アイラは驚きました、と言いつつ真顔だ。
「ほう、そうだったのか、ご苦労」
レミエスはいつもの調子でジェミルに労いの言葉を送るが、ジェミルは不機嫌そうにレミエスを無視し、ロントスに話しかける。
「知らない場所に独り、寂しかっただろう?心細かっただろう?俺が来たからもう安心だからな」
「はぁ…」
自信満々に頼ってくれよ!と笑うジェミルに、ロントスは少しうんざりした。人界に来てまで比較されたら、とロントスは不安になる。そんなジェミルとロントスを無視してアイラはレミエスに話しかける。
「主神レミエス様、いつまで人界に滞在なさいますか?」
「そうだな、ロントスよ、そなたはいつまでを人界調査とする?」
レミエスに問われ、ロントスは慌てる。いつまでを人界調査とするのか、考えていなかったことにどうしたものかと焦るが、バロアとの話を思い出し、深呼吸をして堂々と答えた。
「バロアたちが直面している戦争の解決までは…!」
ふむ、では私もそれまでは滞在する、とレミエスはアイラに告げる。戦争の言葉にジェミルは呆れた顔でヒトは愚かだな、と呟く。アイラは特に表情を変えることなく、それは長引きそうですか?とロントスに尋ねる。
「え、えぇと、ま、まだ調査中といいますか…」
「そうですか」
ロントスの歯切れの悪い返しにアイラは考える。そんなアイラにレミエスは軽い口調で提案する。
「副神よ、そなたは私に早く神界に帰還せよと言うのか?」
「いえ、ただ心配なのは神界の維持だけです」
ふはは、とレミエスが笑う。
「それについては問題などない、私は主神だぞ?それに私に信仰心を捧げてくれるものがここに居ろう」
「え?」
ロントスはレミエスにがしっと肩を引き寄せられ、突然のことに呆然とする。それに対しジェミルは2人の間に割って入り引っぺがす。
「なにをしている!!」
「友とは距離が近いのが普通だと聞いた」
ヒトから聞いたのかレミエスは楽しそうに笑う。ジェミルはレミエスを睨み付けるが、アイラに不敬だと咎められ、ふてくされる。
「…あ、そ、そうだ!こ、ここではレミエス……は僕の友と誤魔化しているんだ、その、ジェミルも副神アイラ様も、主神であることは伏せていてほしい」
何故そんなことをしているんだ?とジェミルに問われ、ロントスは言いにくそうに告げる。
「ば、バロアは神に喧嘩を売ったヒトらしく、その、神に、宣戦布告するようで…」
「宣戦布告ぅ??」
ジェミルは思わず大声で叫ぶ、慌ててロントスが口を塞ぐが、大声に何事かと様子を見にバロアがやってくる。
「おう、なんかあったのか?」
「い、いえ!話に花が咲いて少し盛り上がってしまって…!」
おうそうか!そいつは楽しそうだな!とバロアは無邪気に笑う。もう少しで夕飯だぜ、と告げ部屋を出て行く。ロントスはホッと一安心し、小声でジェミルに話しかける。
「とにかく、僕の友なら問題ないって事らしいから、主神であることは黙っているように!もしも主神に危害が及ぶことがあってはならないから!」
必死なロントスにジェミルは頭をかき、わかったよ、と答える。
「ところで副神よ、そなたはどうする?」
「ワタシは主神レミエス様に付き従います」
「ほうそうか、ならば友として接しよう。私たちは皆ロントスの友だ」
レミエスの言葉に承知しました、とアイラが頷く。そんな2人にロントスは恐縮した。
「ふ、副神アイラさまも…ですか?!」
「はい、これからよろしくお願いしますね、ロントス」
ニコッと美しく微笑むアイラにロントスは少しドキッとしたが、ジェミルにペチペチと軽く叩かれ、現状に困惑した。
「神界のトップお2人の、と、友達…???」
「ロントスの友なら俺の友でもある、それらしい口調で崩して話せばいいのだろう?」
呆然としているロントスを置いて、レミエスたちは話を進める。
「アイラよ、くれぐれも気をつけるように」
「心配ご無用です、レミエスもあまり偉そうに振る舞わないように」
いつもの喋り方でないアイラにレミエスは良い良い、と笑う。その日の夕食中、ロントスはあまりの事態に味がしなかったと後に語る。
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