不穏な気持ち

ジェミルとアイラ、2人と合流した次の日の朝、いつものように鉄音で起き、神4人はバロアたちの朝食を共にする。

 

「ちっとせめぇかもしんねぇが、今日だけは勘弁してくれ」
「いや、押しかけてるのはこっちだし…」

 

レミエスの隣に椅子が2つ並べられ、そこにアイラとジェミルの朝食が置かれている。アイラは当然のようにレミエスの隣に座る。ジェミルは不満そうな顔でロントスの隣に座るレミエスとバロアを見る。

 

「おうロジー、その神さんの料理こっちに持ってきてくれ」
「え、バロア?」

 

何かを察したバロアがロジーに指示を出す、それに対しどうしたのかとロントスは慌てるが、ジェミルに用意されていた席とバロアが座っていた席を交換したのをみて、ロントスは呆れ顔でジェミルを見ると、心底嬉しそうにロントスの隣に座った。

 

「そういやロントス、お前さんの幼なじみってその神さんか?」
「あぁ、そうだ」

 

バロアの問いかけにロントスが答えるよりも先にジェミルが即答する。ということは金が生み出せるのか?!とロジーを含めバロアの仲間たちがジェミルに視線を向ける。なにをそんなに騒いでおる、とレミエスが呟くと、アイラが簡単な説明をする。

 

「ヒトはお金と物を交換して暮らしているのです」
「神さんは違うってのかい」

 

神にとって富とは捧げ物の一種であり、煌びやかに飾るものくらいの扱いです、とアイラが言うとバロアは首を傾げた。

 

「そも富とは豊かさだ、俺の力で確かにヒトの金銭を生み出せるだろうが、それは俺への心からの信仰心がなければただのゴミしか生み出せんぞ」

 

そう上手い話はないよね、と言うものから、今から信仰します!と宣言するまで多種多様の反応をするバロアの仲間たちに対し、レミエスは不思議そうに呟く。

 

「富とはヒトにとって重要なものだったのか、ならば人界調査に向いていたのは富の神…?」

 

よくわからんな、と言いながらリンゴを食べるレミエスに、ロントスは途端に血の気が引いた。ジェミルはロントスと違い生まれながらに強大な力を持っていた。もしも、もしもジェミルに人界調査を代われと指示されてしまったら、この役目に喜びを知ったロントスは、立場を奪われるのではないかという恐怖を感じた。

 

「ところでなんで俺たちにだけリンゴがあるんだ?」
「神さんたちはフルーツが主食なんだろ?」

 

なんで知っているんだ?と聞くジェミルに、ロントスから聞いた!と笑うバロア、なるほどと呟いてジェミルもリンゴを食べる。昨日はまるまる一個だったが今日は半分に切られているリンゴを、ロントスも大事に食べた。

 

「とみの神さまー!」
「キラキラしたのも出せるのー?」
「見せてー」

 

朝食後、バロアがジェミルとアイラに集落を案内中に子供たちが駆け寄ってくる。純粋無垢な眼差しに少し戸惑うジェミルだが、少し考えたのち手のひらから小さな金貨を数枚作り出す。それをみたバロアと子供たちが歓声を上げる。

 

「これはお守りだ、大事に持て」
「わーい!ありがとう」

 

3人の子供に3枚の金貨を渡すと、子供たちは嬉しそうに握りしめ去っていく。残った金貨でジェミルがコイントスを繰り返す。ジェミルが暇なときによくしている遊びだ。バロアは驚きで開いた口が塞がらない。

 

「そんなに驚くことなのか?」
「そりゃそうだろ、何にもないところから金貨が出てきたらよぉ、まるで手品だぜ」

 

不思議そうなレミエスにバロアは少々呆れ気味だ、神とは感覚が違いすぎることを常々感じるバロア。ジェミルは残った金貨をロントスに渡すとにっこりと笑う。

 

「ロントスもお守りとして持っててくれよ」
「はぁ…」

 

半端無理やりに手渡される金貨を、ロントスは一応大事にしまう。

 

「はぁ…、ジェミル、お前さんを信仰すれば金運に恵まれるってぇことか?」
「さぁ、それはどうだかな」

 

素っ気なく返すジェミルにバロアはなんとも言えない顔をする。

 

「そうだ、そういやレミエスとアイラは何ができんだ?」

 

そのバロアの質問にロントスはドキッとした。2人は神界トップ1と2、主神と副神だ。できることはジェミルすら超越している存在。それを素直に言ってしまったらまずい、となんて答えるべきか悩んでいると、アイラはすらっと答える。

 

「レミエスは空が飛べ、物を浮かして運べます。ワタシは遠くのものを送ったり、取り寄せたりできます」

 

簡素的な答えに、バロアはいまいちパッとしないなともらす。

 

「すごい便利そうなのはわかんだけどよぉ、ジェミルの驚きには敵わねぇな」

 

なんて失礼な!とロントスは途端に声に出しそうになるが止まる。想像がし難いというバロアに対しレミエスは快活に笑う。

 

「ヒトも驚きを欲するか!ならばいずれ私の力で驚かせてやろう」
「いやそういうもんじゃねーぞ?そうじゃなくて…」

 

バロアの言葉をまるで聞いてないレミエスがバロアに問いかける。

 

「ヒトは富の方が良いのか?」
「そりゃ生活に直結するからな」

 

ふむそうか、と何かを思案し始めるレミエスにジェミルは少し嫌そうな顔をする。ロントスは考える仕草をするレミエスに酷く焦った。自分の立場が無くなってしまうのか…?と。

 

「ほれほれ、お喋りはここまでだ、残りの案内ちゃちゃっとやっちまおうぜ」
「お願いします」

 

バロアに促され、アイラは相変わらずの真顔で答える。バロアについて行くレミエスたちだが、ロントスだけはその場に佇んだ。

 

「ロントス、どうした?」
「あ、いや、昨日治癒したヒトたちの様子が気になるから、僕ちょっと行ってくるよ!ジェミルはちゃんと案内されて」

 

そう言い終わるとその場から立ち去る。ジェミルが引き止めようとしたが、アイラに腕を掴まれバロアの案内へと連行される。その日の夕食でも、ロントスはあまり喋ることはなかった。

 

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