新たな問題

ヒトとは物語を紡ぐものである。力を持つもの持たぬもの、多種多様の世界に争いと平和の狭間を行き来する。その歩みが全て物語となる。

 

「そうか、厄介だな…」

 

バロアは偵察部隊からの報告を聞き深刻そうにため息を吐く。ゆっくり休めよ、と仲間に労いの言葉をかけると椅子に深く沈む。

 

「向こうさん、遂にまとめ役が現れたかね…」

 

深く深くため息を吐きサングラスを外し顔を手で覆う。すると、バロア居ますか?と声がして、いるぜ!と答える。

 

「失礼するね」

 

優しい微笑みを携えて部屋に入ってきたのはロントスだった。その手にはレミエス作の料理を持っていた。

 

「おう、どうした?その料理は?」
「レミエス…が作ったんだ、バロアにも食べて欲しくて」

 

なんだなんだ嬉しそうだな、とバロアが笑うと、元気よく、はい!とロントスが声を上げる。どれどれ、と料理に手を伸ばし一口食べると、バロアは驚いた。

 

「うめぇな!レンラたちにも負けねぇぞ」
「でしょう!もっと教えて欲しいと言っていたよ」

 

レンラは気前がいいからなぁ、と笑うバロア。アイラも気が向いたら作りたいそうで、と機嫌の良さそうなロントスに、バロアは少し話を変える罪悪感を感じながら切り出す。

 

「ロントスはさ、ここに来てからどうだ?」
「どうって…まぁ、いろいろ思う事はあるけど楽しいよ」

 

そうか、とバロアが言うと、どうしたの?とロントスは尋ねる。少し躊躇いつつもバロアは地図を指差して説明をする。

 

「国の成れの果て共がこっちの偵察基地を占領して、ここに攻撃を仕掛ける準備をし始めたらしい」

 

それを聞いたロントスは驚き口に手を当てる。偵察基地にいたヒトは?と聞くロントスにバロアは大体は帰ってきてるよ、と答える。ロントスはなにも言わず俯く。

 

「偵察部隊曰く、統率もあり指示を出してる奴も確認できたって話だ。今までのような考えなしのゴリ押しとは違うようでな」
「それって…」

 

オレみたいなリーダーが現れたんだろう、とバロアが答えると、ロントスは手を握る。

 

「…どうするんですか?」
「そりゃ取り戻さねぇとな、捕まってる仲間が居るって話だ。ただ被害は出したくねぇ、それでよロントス、頼みがあるんだが…」

 

真剣な眼差しのバロアにロントスはただ黙って話を聞くと、その場を後にした。バロアはサングラスをすると背伸びをして立ち上がる。頬を叩き気合を入れると、レミエスの料理を食べきる。

 

「レミエスさま!お話が」
「呼び捨てせよ」

 

申し訳ありません…!と謝るロントスに、レミエスは呆れ気味に笑うと、で、なんだ?と問う。

 

「はい、じつはお願いがございます」
「お願い?」

 

はて、なんだろうか?と首を傾げるレミエスに、ロントスは重々しく切り出す。

 

「バロアたちの偵察基地が敵に奪われ、何人かの仲間が人質になっているとのことです」
「ほう、では奪還に赴くか?また大人しく待っていよと願うか?」

 

いえ、そうではありません、と答えるロントスに、レミエスは嬉しそうに微笑む。

 

「お力をお借りしたいのです…!主神レミエスさまによる、救いを…」

 

深々と頭を下げるロントスにレミエスは顎に手を当て、考える仕草をする。

 

「ほう…、主神に救いを求めるか。そういえば人界調査の終わりはヒトの戦争の解決だったか。ロントスはバロアの味方をすることで解決に向かうと思っているのか?」
「それは…」

 

どっしりと構えるレミエスの圧に、ロントスは少し臆する。しかしロントスはここに来て感じたことを言葉にする。

 

「確かに私はバロア側の状況しか見ておりません。一方的に好意を感じ、一方的にこちらが正しいと決め付けているでしょう」

 

主神に対する神としての言動で話すロントスに、レミエスはなぜか楽しげだ。

 

「しかし私はあの荒廃した土地をこの目で、間近で見ました、バロアたちと敵対する者たちも見ました。敵意を剥き出しにし、ヒトの世を壊しています」
「ふむ」

 

真剣なロントスの言葉を止めるように手を突き出すと、ロントスの頭を徐に撫でた。突然のことにロントスは驚き頭が真っ白になる。お、推しが撫でてくれてるー!!!

 

「ロントスよ」
「は、はひ?!」

 

レミエスは立ち上がり、神々しい羽根を出す。

 

「良いであろう、主神として救いを与えよう。具体的にいえばアイラを貸す」
「え、と、アイラ…さまを?」

 

困惑するロントスはどう言うことだろうかと首を傾げる。すぐに羽根をしまったレミエスは、またどっしりと座り込み、楽しそうに笑う。

 

「どのように活用するかは任せる。ロントスよ、そなたの手腕、期待しておるからな」
「は、はい!」

 

高みの見物、が似合う姿勢のレミエスだが、ロントスは期待している、という言葉に内心大興奮した。貧乏神と笑われている自分に期待されている、必ずやり遂げるぞ!と。

 

「それでバロアにも私の料理を食べさせたのだろう?」
「え、は、はい。とても美味しいと喜んでいました」

 

ロントスの答えにレミエスは目を輝かせながらそうかそうか!と心底嬉しそうに笑う。次はなにを作ってみようか、あれがいいか?いやそれとも、とブツブツと思案するレミエスの邪魔にならぬようにと、ロントスは小さく失礼します、と言い残し部屋を出た。

 

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