彼は真理を知る

 俺は気付いてしまった、俺は漫画の世界の住人であると。それもただの漫画じゃない、所謂ボーイズラブ漫画の住人であると……!

 

「(そう、思えばおかしな事はいくつもあった、イケメンの比率が異様に高い学内、その割に顔の造りがあやふやな女子たち)」

 

 ここがBL漫画の世界だとすれば説明のいく数々の出来事があった。

 

「(好きな女子の話から抱けそうな男子の話になったりして困惑した記憶があったが、そういうことか……)」

 

 なぜ今まで気付かなかったのだろうか? だとしたら……、俺は気付いた時点で大量のBL本を読み漁った。確かめたい事があるからだ。

 

「(むむむむむ……!)」

 

 談笑中に敵意剥き出しで連れ去る謎の美形男子、やたらチラチラ見てきてよく目が合う友達、犬猿の仲だった二人がある日、妙によそよそしい雰囲気を出していた事……。

 

「(…………体育の着替えで腰細くないか? と心配されること、他の友達と喋ってたら間に割り込んできたこと、女子に遊びに誘われた時、俺を理由に誘いを断った、こと……)」

 

 BL本を読み進めていく度に、これまでの滝本の行動が漫画の攻めキャラ、ドンピシャで俺は手が震えた。

 

「(い、いやいやいや、なんで俺? イケメン同士でやってるもんじゃないのか?)」

 

 俺は平凡でイケメンとは程遠い顔面をしている。というか俺の家系はどこに出しても恥ずかしくない所謂モブだ。

 

「(そんなモブに、男前と言われて女子にモテモテだった滝本が……こ、告白??)」

 

 さっぱりわからない、と思ったが受けカテゴリの一つに「平凡受け」なる文字を見つけて俺は戦慄した。

 

「(マジかよ)」

 

 どこにそんな需要があるんだよと思ったが、少女漫画なんかではポピュラーな設定だったなと妙に納得してしまう。

 

「(じゃあやっぱりあの告白は、マジでそういう意味で、俺のことを、好き……っていう)」

 

 そこまで考えて頭が真っ白になる。滝本が? 友達の滝本が? 確かにちょっと距離が近かった気がしないでもなかったがそんな素振りはあったんだったな、当時の俺は気付いていなかったが……。

 

「(大学でもよろしくなって……)」

 

 同じ大学に受かって、また一緒に勉学に励むのか……? 俺を好きだと告白してきたやつと??

 

「(いや別に滝本のこと、嫌いじゃねーけど、俺は、普通に巨乳の女子が好きだし)」

 

 そう、滝本には悪いが俺はBLにはなりたくないと、そう強く思ってしまった。

 

「(しかし、告白されてから日が経つ、今更どんな顔して会ってどうお断りすればいいんだよ)」

 

 一緒の高校で親友として接してきて、同じ大学で共に通うのに、気まずいったらありゃしない。それは断っても断らなくても同じである。

 

「(と、ともかく! もっと敵(BL)のことを知る必要がある、なんとかして穏便に滝本のフラグを折って回避するんだ……!)」

 

 そう心に決めた俺は、大学が始まるまでの間、ひたすらにBL本を読み漁り続けた。

 

(END)―
 綾人「最近、兄貴が部屋に閉じこもってんだけど」
 父「大学に受かっても勉強してるのか? いいことだな!」

 

Top

-