秀才くんと主人公6
いま俺の目の前にあるのは、実に美味しそうな、日本の朝食のお手本のような、そんな料理たち。味噌汁に鮭、ホカホカのご飯…。
「(几帳面で真面目な秀才くんの家って感じ)」
きっちりと揃えて料理を配置する秀才母に俺は頭を下げる。
「あ、ありがとうございます」
「気にしなくていいのですよ、秀才さんから話は聞いております、とてもよくしてもらっていて感謝してます」
秀才くんの両親も眼鏡をしていて、実に真面目な、その、ちょっとパッと見は堅そうでいて、実際に振りまかれている雰囲気は善人そのものという。
「(言動を見るにちょっと抜けてるところがありそうな、そんな感じ…)」
BL漫画ではあまり見ないタイプだなとか思っていれば、全員が席につき両手を合わした。
「いただきます」
「い、いただきます…」
堅苦しい気もするが、重苦しくはない。ともかく有り難く食べるかと一口食べて、その美味しさを噛みしめた。
「お口に合いましたか?」
「あ、はい、とても…」
それは良かった、と微笑む秀才一家。静かに、それでいて暖かな雰囲気の中、ぽつぽつと秀才両親は俺に質問をしてくる。お家はどこ?何がお好き?などなど。
「ごちそうさまでした」
質問に答えつつ朝食を食べ終えれば、秀才くんが俺に話しかけてきた。
「___さん、家まで僕がしっかりお送りしますから、道案内お願いできますか?」
「え…?」
話を聞いてこの場所が家からどの辺りなのかは理解できた。その申し出は断るべきなのだが、断ったら可哀想、なんて考えが出てきてしまう。
「そうだわ、___さんに渡したいものがあったの」
「え…」
どうぞ、と差し出されたのは何やらこぢんまりとした紙袋。中身は和菓子のようだ。
「いつでも気軽に遊びにおいで、秀才がお友達を連れてきてくれてとても嬉しいよ」
「父さん…!」
ほら、お仕事の時間でしょう?と秀才くんが指摘すれば秀才父は「そうだね」と言って立ち上がり仕事へ向かった。
「あぁ、後片付けは大丈夫ですから、早くお家に帰ってご家族を安心させてあげて」
「さぁ行きましょう」と準備万端な秀才くんを振り払うこともできず、秀才母にお礼を言って、俺は秀才くんと二人で家を出た。
「公園の方までは僕が案内しますね」
「あ、うん…」
なんとも嬉しそうに俺の隣に立ち、こっちですよ、と案内してくれる秀才くん。
「……僕の両親、ちょっとお節介じゃなかったですか?」
「え?」
唐突に秀才くんがそう話し出す。まぁ、見た目の印象と違って、怖いくらいに優しくされたなとは思ったが。
「僕の両親は友達を連れてくるといつもああで、友達を困らせてしまうことも多々あって…」
「嬉しいんじゃない?」
そう言えば秀才くんは頬を軽く染める。
「分かってはいますよ、だから僕もあんまり言葉にできなくて…」
でも恥ずかしいからあまり家に友達を呼べない、と苦笑いする秀才くん。
「(うーん…)」
秀才くんと並んで朝の住宅街を歩く。変な感じだ、秀才くんは、酔い潰れた俺に手を出したのだろうか…?なんて考えたりもしたが、そんな雰囲気は微塵も感じないし、向けられている好意を、俺は悪くないなんて思ってしまっている。
「(うぅん、ダメだぞ…、しっかりしろ俺)」
そうこうしていれば公園に辿り着く。ここまで来ればもう一人で帰れるのだが、秀才くんは頑なについてくる様子。
「……えっと、こっち」
仕方なく「おいで」なんてジェスチャーをして、俺は秀才くんを家まで道案内してしまう。そんな俺に秀才くんは嬉しそうな顔をするので、可愛いな、なんて思ってしまった。
「(耳が、しっぽが見える…)」
ボーダーコリーの、耳としっぽの幻覚が見える。ブンブンとしっぽが振られているように、見えてしまうのだ。
「でも、本当に俺が貴方を見つけられて良かった」
不意にそんな言葉を呟く秀才くん。
「(う、わ…)」
その表情はどこからどう見ても恋をしている顔だ。緩んで、頬を赤く染め、愛おしそうに俺を見ている。思わず顔を逸らして、早足でこっちだよと逃げ気味になってしまう。
「あ、___さん、待って…」
「……!!」
そんな俺を逃さないように、するりと手を掴み、優しく手を繋がれる。その熱に俺は何故かドキドキしてしまう。
「(いやいやいや…)」
意識してない、してないぞ…。そう思いながら、家に着くのが嫌だな、なんて言葉が頭の中に浮かんでしまった。
(END)-
主人公「(秀才くんの顔を直視できない…)」
秀才「(___さんの手、しっかりしてるなぁ…)」
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