秀才VS綾人
とある日の休日、リビングで録画してあった番組やドラマを消化していた時のこと。家のチャイムが鳴って、オレは兄貴を呼んだ。
「兄貴ー、誰か来たー」
「対応する気ゼロかよ…」
はいはい、と言って玄関に向かう兄貴。オレはそのままテレビの前に居続ける。
「あ……秀才くん?」
「!?!?」
ふと玄関から聞こえてきた兄貴の声に、オレはすぐさまテレビを停止させて玄関へと走った。
「お邪魔します!」
「どうぞどうぞ」
駆けつけた時には今まさに秀才が靴を脱いで家に上がろうとしていた。
「おまっ、秀才!!!」
「あ、綾人くん、こんにちは」
前回は兄貴に告白してきてオレは認めねぇ!と言ったのに絶対に幸せにする!とかなんとか言って一歩も引かなかった秀才。悪いやつではないのは分かっているが、はっきり言ってモヤモヤしている。
「なんで来たんだよ?!」
そう怒鳴れば兄貴が呆れた顔をして息を吐いた。
「別に遊びに来たっていいだろ?綾人は東條くんをよく家に連れて来るし」
「なっ?!」
なんでそこでと、東條の名前が出てくんだよ!と動揺してしまい、オレは咄嗟にリビングへと走ってしまう。
「あ、綾人くん!」
何故かオレの後を追って秀才が早歩きで側へと来ると、はい、と言って一つの紙袋を手渡してきた。
「……なにこれ?」
「母さんから仲良くしてくれているお友達に、とお土産を渡されまして…」
手渡された袋の中身をチラッと確認してみる。どうやら手作りのお菓子のようで、袋から取り出して見れば、透明なタッパにお饅頭が綺麗に並べられていた。
「(ぐっ、う、美味そう…)」
いや、食べ物は食べ物であり、秀才の好感度なんかは上がらないぞ?こいつはあろうことか兄貴に告白をした人物なのだ。
「せっかく来てくれたんだからお茶飲んでいきなよ」
「え?い、いいんですか?」
よくねぇよ!と言おうとしたオレよりも先に兄貴がオレの手の中にあるお饅頭を指差した。
「それ、沢山あるみたいだからみんなで食べよう」
そう言ってキッチンに皿とお茶を取りに行った兄貴。し、仕方ねぇな、とオレはお饅頭をリビングのテーブルに置いて乱暴気味に椅子に座る。
「綾人くん」
「……なんだよ?」
秀才は何か言いたげな顔をしたが、すぐに軽く首を横に振って椅子に座り、改めて口を開いた。
「この前は生徒会長の体調不良に気付いてくれてありがとうございました」
そう言ってやんわり笑う秀才に俺はそっぽを向く。
「同じ生徒会に居るんだからお前らがちゃんと気付けよな」
そう吐き捨てれば秀才は申し訳なさそうに謝ってきた。
「ぐうの音も出ません」
落ち込んでいる秀才に、なんだかいじめているみたいでオレは首をぶんぶんと横に振ってタッパの蓋を開ける。
「別に怒ってねぇよ!お前らも大変だったんだろ?」
空気を変えようとするオレの意図に気付いた秀才は、別の話題を口にし始めた。
「そうだね、あぁ!そう言えば綾人くんのクラスは劇をするんだったね?綾人くんは役者?それとも裏方かい?」
ぐっ、よりにもよってその話題かよ!とオレは表情を歪める。そしてそんなタイミングで兄貴が皿とお茶を持って席にやって来た。
「そういえば俺も聞いてないな…」
タッパからお饅頭を取り、皿に乗せてオレと秀才に差し出す兄貴が珍しく興味ありげに聞いてきた。
「ちょ、ちょい役だ!」
そう答えてお饅頭を頬張れば、兄貴もお饅頭を食べた。
「いただきます」
そんな俺たちとは違って、丁寧に手を合わせてからお饅頭を口にした秀才に、オレと兄貴は互いに顔を合わせ、そっとお饅頭を皿に置いて、小声で「いただきます」と口にして改めて頬張った。
「うん、美味しい」
そう言って微笑む兄貴を見た秀才が嬉しそうに笑う。くそ、こいつら本当に付き合ってんのか?マジなのか?オレは認めてねぇぞ!?
「綾人くんはどうかな?」
「美味いけど!!」
だからもう一つ寄越せ!と言えば兄貴は呆れた顔をして「やれやれ」とお饅頭をオレに差し出した。
「気に入ってもらえて良かった!」
ぐぬぬ、こんなんでオレを納得させたとは言わせねぇからな!兄貴はオレの兄貴なんだぞ!!と秀才を睨めつけながら二個目のお饅頭にかぶりついた。
(END)-
主人公「(綾人、めちゃくちゃ分かりやすく秀才くんを敵視しとる…)」
-