秀才くんと主人公5

頭が痛い、目を開けてぼやける視界に頭を抱える。

 

「(あれ、えっと、俺は、何してたっけ…?)」

 

確かえっと…そう、いつものメンバーで集まって、飲み会したんだ。それで…、途中からの記憶がない事に気が付いて勢いよく起き上がる。

 

「いっつ…っ!!」

 

ズキンと頭が痛んで両手で頭を押さえる。痛みが少し引いてから辺りを見回りして俺は困惑した。

 

「(え?こ、ここどこだ…?!)」

 

全く見覚えのない景色にサーっと血の気が引く。やばい、やばいやばい、これはそこら辺に落ちてる人になっていたんじゃないか?!お、お持ち帰りされたのか俺?!尻は痛くないか?!服は着てるか?!と掛け布団をめくろうとして、隣に人がいる事に気が付き悲鳴を上げそうになった。

 

「………………………ひ、秀才くん?」

 

驚いたが、規則正しく寝息を立てて寝ている人物が誰なのか分かって少し落ち着く。そこに居るのは眼鏡をしていない秀才くんではないか。寝相もきっちりとしている姿に、流石…と声がもれてしまう。

 

「(てことはここ、秀才くんの家か…?)」

 

そこら辺に落ちていた俺を秀才くんが拾って、家まで連れて帰ったと…?

 

「(やらかした!フラグの立っている相手に拾われるなんて最悪すぎる…!秀才くんは何故か俺にめちゃくちゃ懐いている相手なのに…!)」

 

そんな相手に拾われたということは、やばい…、そんなの何もされてない訳がないじゃないか。

 

「(尻は…大丈夫そう、だけど…、キスとか、されてたりするか…?)」

 

自分のやらかしにより一層、頭が痛くなる。

 

「……あ、おはようございます、___さん」
「!!」

 

七時きっちりに目を覚ました秀才くんが、少し眠そうな目を軽くこすり、すぐに眼鏡をかけて挨拶をしてきた。

 

「お、おはよう…!」

 

寝起きだからか髪の毛がボサボサな秀才くん。…いや待てよ、もしかして酔っ払って"俺が襲った"可能性もあるのか???いやでもどちらも服着てるしな、と、ともかく落ち着くんだ、状況把握をするんだ俺!!

 

「昨日のことは覚えていますか?」
「え?」

 

秀才くんの言葉に情けない声が出る。覚えてない、と控えめに告げれば秀才くんは呆れた顔をした。

 

「あんな事をしたのに覚えてないとは…」
「……っ?!?!!」

 

あ、あんな事?!え?なに?マジでやらかしました?!どうにか思い出そうと必死に頭を働かせてみるが、ただただ頭が痛むだけだ。

 

「だ、大丈夫ですか?水持ってきましょうか?」
「ぅ…お、お願いします」

 

布団から出た秀才くんが部屋を出て行き、すぐに水を持って戻ってきた。

 

「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう…」

 

優しげに微笑んで水を渡され、俺は冷や汗が止まらない。

 

「(な、なんて顔をしているんだ秀才くん…、そんな、そんな愛おしいモノを見るような目…)」

 

これは、ダメだ、完全に何かをしでかしてしまったようで、フラグを回収してしまったようだ…!

 

「(既成事実作っちゃったのか…?!飲み過ぎには気を付けていたのに…っ)」

 

それでも回避を、フラグを折ることをあーでもないこーでもないと、痛む頭で思考を巡らせる。俺は諦めないぞ…!責任を取るつもりはない、どうにかしてこの状況からの打破を…!

 

「___さん、正座してください」
「へ?」

 

水を飲み終えると不意にそう言われ、唖然としていれば秀才くんが俺からコップを取り上げ、近場にある机に置いてもう一度言う。

 

「正座、してください」

 

その表情は真剣そのもの。え、告白される…空気感ではないな…?秀才くんの指示に従って俺はその場に正座をすれば、秀才くんが怒った。

 

「いいですか?!どのような経緯があったのかは分かりませんが、酔っ払って外で倒れるだなんてあまりにも不用心です!無防備過ぎます!!」

 

子供を叱る親のように説教された。と、年下に正論を言われている、なんて情けないのだろうか。

 

「たくさん飲んだのならタクシーなどを利用するべきです!僕が見付けなかったらどうなっていたか…!」

 

グッと手を握りしめ、わなわなと震える秀才くん。なんというか学校でもそんな感じに怒ってそうですね。

 

「反省してください!」
「は、はい…!!」

 

ビシッと指を刺されて思わず両手を上げて返事をする。そりゃそうだ、酔ってその辺に落ちてる人になんてなったらお持ち帰りされるか金品盗られるかの二択なのだ。

 

「(そして今回は秀才くんが俺をお持ち帰りしたと…)」

 

とはいえ甘い空気とは程遠く、すごく真面目に俺は叱られている。秀才くんはあーだこーだと今回の俺の失態の話をしてくる。み、耳が痛いです。

 

「はぁ…全く、しかも酔っ払って僕のことを賢いワンコだねなんて言って、めちゃめちゃに頭を撫で回すし…」
「へぇ!?」

 

その言葉に驚けば秀才くんがジト目で俺を見てきた。

 

「覚えてないんでしょう?」
「……お、覚えてません」

 

俺はタラタラと汗を流す。俺の言葉に特大のため息を吐いた秀才くんが俺に近付いた。

 

「もう…、貴方って人は…」
「…!!」

 

しっかり反省してくださいよ?と言って頭を軽く撫でられる。

 

「貴方のせいで僕の髪の毛はぐちゃぐちゃですよ。ほら、一緒に洗面所に言って身支度しましょう」

 

両親には既に話をしていますから、朝ご飯を食べて行ってください。という秀才くんが立ち上がり俺に手を差し出す。あ、そうか、両親、両親居るのか…じゃあ、そういったやらかしはしてない、のか…?

 

「えと…、はい」

 

自然とその手を掴んで立ち上がってしまう。

 

「ふふ…」

 

そんな俺に秀才くんはふわっと笑った。

 

(END)-
主人公「(……あ、秀才くんの髪の毛がボサボサなのは俺が撫で回したからか?!)」

 

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