秀才くんと主人公4

「(学園祭の作業をしていたらもうこんな時間に…、全く椋木くんも河相くんももう少し積極的に働いてほしいものだ…!)」

 

そんな事を考えながら急いで帰宅している。同じ生徒会のメンバーに対して愚痴を思ってしまうが、実際はしっかり働いてくれているのは分かっている。しかし生徒会長は多数の生徒から相談されていてもっと大変なのだ、少しでも手助けせねばと俺は必死だ。

 

「(生徒会長に頼りたい気持ちは理解するが、生徒会長にばかり声をかける連中には腹が立つな…、しっかり支えねば…)」

 

そんな事を考えながら歩き公園へと差し掛かった時、誰かが公園内で倒れているのを見つける。

 

「む…?!」

 

何かあったのだろうか?辺りを見回しても誰も居ないので、急いで近寄れば見覚えのある後ろ姿に驚いた。

 

「え、あ、___さん?!」

 

ベンチ付近に倒れていたのは___さんだった。具合でも悪いのだろうか?慌てて脈を測ろうと手を取ったが、すぐに倒れている原因が分かった。

 

「(う、お酒くさい…)」

 

よくよく見てみれば首まで赤い、どうやらお酒を飲み過ぎて寝てしまったのだろう。失礼します、と呟いてから体に手を伸ばし、よいしょ、とベンチに座らせれば、うーん、と小さく唸ったりしつつスースー、と寝ている。

 

「___さん…なんて不用心な…」

 

あの日、俺を助けてくれた人のだらしない姿。なんというか、見ていられない…。試しに肩を掴んで揺らしてみても起きる気配はない。

 

「(___さんも大人ですし、お酒を飲んで羽目を外す事くらいはあるか…)」

 

なんとまぁ、ダメな大人だろうか。俺を助けてくれた尊敬できる人というイメージが崩れる音がする。

 

「(い、いや、もしかしたら誰かに飲め飲めと無理やり飲まされた可能性もあるだろう)」

 

良い人である___さんのことだ、その可能性はある。俺は___さんを疑う事を止め、現状を再確認する。完全に酔い潰れている___さんが公園で倒れていた。家はこの近くだろうか?綾人くんのお兄さんなので、綾人くんへ連絡できれば迎えに来てくれるだろうか?

 

「(しかし、俺は綾人くんの連絡先を知らない…)」

 

どうしたものか…、生徒会長は綾人くんと仲が良かったはずだ、そちらに連絡をして…いや、生徒会長は学園祭の準備で忙しくお疲れだろう。そうこの前なんか疲れが溜まって早退してしまったほどだ。

 

「(ど、どうしましょう…)」

 

警察に連絡…をすればきっと___さんは家族に怒られてしまうだろう。いやそれは綾人くんが迎えに来ても同じか…。

 

「(仕方がない、警察に連絡するか…)」

 

俺は___さんの家の場所を知らないのでそうするしかないかとスマホを取り出せば、___さんの声がしてびっくりした。

 

「あ、れ…?君は…」
「あ、___さん?起きましたか?立てますか?」

 

起きてくれたのなら助かる、重いだろうけれど体を支えながら道案内をしてもらえれば、家まで送り届けられるだろう。そう思っていれば___さんはにへっと笑った。

 

「あー…秀才くんだぁ…、よしよし、いい子いい子…」

 

そう言って俺の頭をなでなでしてくる。その行動に俺は硬直してしまう。

 

「(え、え、えぇ?!)」

 

こんな緩んだ表情の___さんは初めて見た。しかし初めて出会ったあの日、俺を泣き止ませるために撫でてくれたあの優しい手を思い出し、俺は一気に顔が熱くなってしまう。

 

「(わ、わわわ…っ!?)」

 

ドキドキと自分の胸の音がうるさい。___さんの手が、表情が、その、あの、えと…!!

 

「秀才くん…?」
「あ…」

 

どうしたの?と赤い顔で、俺の顔を覗いてくる___さんに思わずその頬に手を伸ばしてしまう。___さんは俺の手が冷たくて気持ちいい、なんて言って笑った。

 

「(___さんの体…、暖かい…)」

 

お酒を飲んで熱くなっているのだろう。酔っ払っているのか___さんは妙に楽しそうな声で相変わらず俺の頭をよしよし、と撫でてくる。

 

「(こんな、胸の高鳴りは、生徒会長に向けたのとも違う…)」

 

憧憬ではない、そうこれは、愛おしいという感情だ。

 

「〜〜っ!!!」

 

そう自覚した瞬間に俺は___さんを力いっぱい抱きしめてしまう。あぁ、なんだろうかこの感覚は、離れたくない、手放したくない。俺はこの人を抱きしめていたい。

 

「………っ」

 

俺は、___さんのことが好きなのだと自覚する。あの日、絶望の淵に居た俺に手を差し伸べてくれた人。生徒会長の言葉が蘇る。

 

『何の意味もないだなんて思わないでくれ』

 

気が付けば___さんはすやすやとまた眠ってしまっている。その寝顔を見て、俺は息を飲む。

 

「___、さん…」

 

ごくりと、喉を鳴らし、軽く深呼吸をして、俺は___さんを優しく持ち上げた。

 

(END)-
あぁ、愛おしい人。

 

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