秀才くんと主人公7

「ここが、俺の家…」

 

自宅を指差してそう言えば、秀才くんは何故か輝きに満ちた目で俺の家を見る。

 

「(着いてしまった…)」

 

飲み会の帰りにやらかして落ちてる人になってた俺を、秀才くんが見つけてお持ち帰りした。一線を越えてしまったか?!と思っていれば、そんなことはなくガッツリと説教を受けることになった。

 

「(そしてこうして家まで送りますなんて言われて連れてきてしまったわけで…)」

 

秀才くんから向けられている視線の意味は理解している。それは今までずっと俺が警戒し折ってきたフラグ。

 

「今回は本当に迷惑かけちゃってごめんね?ありがとう」

 

これ以上の進展は阻止せねば、と思いながら「それじゃ」と言って俺は背を向け、ドアノブを握った。

 

「___さん…!」

 

しかしそれを阻止するように秀才くんが俺の腕を掴んできた。何かを決意した顔を見て俺は瞬時に「あ、ヤバい」と察した。

 

「僕は貴方に、伝えなければならないことがあります…!」

 

あまりの必死さに掴まれた手を振り払えないでいると、秀才くんはぽつぽつと話始めた。

 

「___さんと初めて出会ったあの日…、僕は絶望の底にいました。ずっと憧れの人が居るんです、尊敬できる人。その人の隣に立つに相応しい人になろうと頑張って、頑張って…」

 

苦しげな表情で話す秀才くんの話を俺は黙って聞いてしまう。尊敬できる人、というのは東條くんのことだろう。

 

「でも僕は選ばれませんでした、こんなにも憧れて慕って、想い続けていたのに選ばれなかった…!僕はそれが苦しくて辛くて…、気が付けば想いを叫び迷惑をかけてしまって…」

 

その光景は容易に想像できる。秀才くんは掴んでいた手を離し、優しげに俺の手を触ってきた。

 

「それでもあの人は僕に優しくしてくれて…、自分の愚かさに、選んでもらえなかった事実に絶望して、暗闇の中を歩いて…、そうして貴方と出会いました」

 

ぎゅっと手を握ってきて、真っ直ぐに俺を見つめてくる秀才くんの瞳に、俺は身体が熱くなった気がした。

 

「僕は、俺は貴方に救われたんです!情けない姿を晒してしまった、貴方の情けない姿も見てしまった。___さんと接してきて、憧れや尊敬とは違う、愛おしいと感じたんです」

 

そしてずいっと俺に迫り、秀才くんは叫んだ。

 

「もう過ちを繰り返したくない、しっかりと想いを伝えます!俺は貴方が好きです!」

 

秀才くんと玄関に挟まれ、俺は遂に告白されてしまったかと動揺してしまう。い、いやここはそういう世界なんだから分かっていただろう?残念だがそのフラグを成就させるわけにはいかない。

 

「(ここまでハッキリ言われてしまったのなら最終手段だ、その気はないと言ってフる…)」

 

断ることが最終手段ってなに?という言葉は無しで、そうと決まれば言葉にするだけだ。

 

「………っ」

 

真っ直ぐに、不安げな顔をして見つめてくる秀才くんの顔を見て、俺は言葉が詰まってしまった。今まで、こんな真っ直ぐに告白されたことってあっただろうか?しかしフラグに襲われたことなら何度もあるんだ、いつも通りに、今まで通りに…!

 

「(あぁ…、そんな目をしないでくれ)」

 

秀才くんは生意気な弟たちと違ったタイプの子。どこまでも真面目で、でも可愛いと思うことも多々あって…。

 

「……俺が好き?」
「はい…!」

 

俺の言葉に秀才くんは元気よく返事をする。ここで俺が断ったのなら、秀才くんは今度こそ立ち直れなくなってしまうかもしれない、この子に悲しい顔をさせたくないなんて考えてしまう自分に、俺は驚いてしまった。

 

「じゃあ…付き合う?」
「……!!」

 

そう答えれば秀才くんは心底嬉しそうな顔をする。嬉しそうな犬の耳としっぽの幻覚も見えるぞ…。

 

「いいんですか?!」
「いい訳ねぇだろぉおお!!!」

 

ドン!っと突然、背中にあった玄関が開き、扉に押された俺を秀才くんが咄嗟に受け止めてくれた。

 

「〜〜っ!おいってめぇ!人の兄貴に何してんだ?!」

 

玄関を開けたのは綾人だったようで、事情を知らなければ抱きしめ合っているような状態の俺たちに、綾人はぎゃんぎゃんと騒ぎ出した。

 

「何が「じゃあ…付き合う?」だよ!意味わかんねぇし、認めねぇからな!おいメガネ、人の兄貴に手だしてんじゃねぇ!」

 

俺と秀才くんの間に入ってきた綾人に引き剥がされ、ビシッと秀才くんを指差す綾人のその頭を俺は軽くチョップした。

 

「あで?!」

 

なにすんだよ!と怒っている綾人に俺はため息を吐きつつ怒った。

 

「いきなり怒鳴ってきて人に指差すな!秀才くん困ってるだろ」

 

その言葉に綾人はぷるぷると震え、俺と秀才くんを交互に見る。

 

「つーか、なんで綾人が怒るんだよ?」
「は、はぁ?そ、それは…」

 

何故か焦り出した綾人に、秀才くんが手を叩いた。

 

「あぁ、綾人くんはブラ」

 

何かを言いかけた秀才くんの口を綾人は思いっきり塞ぎ、なんでもねぇ!と言って俺を家の中に押し込んで玄関を閉めた。

 

「(……めちゃくちゃ話し声が聞こえる)」

 

扉越しにオレはブラコンじゃねー!という声がハッキリと聞こえてくる…。綾人がブラコン?学校のみんなにはそう思われているのか…?無いだろ、と思いつつそれって参考書とかでよく見たな、なんて思い至る。

 

「(……あー、だから怒ったと)」

 

クソ真面目に綾人に説明している秀才くんの声に、やめてくれと思っていれば足元にミーコがやって来て甘えてきた。

 

「……ミーちゃんただいま、よしよーし」

 

なんか疲れた、もういいや。俺はミーコを撫でて現実逃避をした。

 

(END)-
秀才「絶対に幸せにします!」
綾人「絶対にやらん!!」
主人公「(なんだそのやりとり…)」

 

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