河相くんと主人公7
鳥がチチチ、と鳴いている…と思いながら目を覚ました。俺は体を起こそうとして重い物が乗っかっている事に気が付き、それに目を向ける。
「(そ、そうだった…、圧に負けて同じベッドで寝たんだっけ…)」
すぅすぅと寝顔だけじゃなく仕草まで可愛らしく寝ているのは河相くんだ。俺に抱きついて寝ているその姿に俺は一瞬焦ったが、この子は男だ。
「(いやそれもこの世界だと危険なんだが…)」
いや、こんなに可愛いのなら問題ないのかも…なんて一瞬頭に浮かんで俺は全力でその考えを振り払う。いやいやBLという時点で何もかもアウトなんだっつの。
「んむぅ…」
可愛らしくあざとい声を出して、俺の胸元に頬擦りをする河相くん。
「……っ」
よくあるBLならばここで可愛さに負けて手を出したりするのだろうが、俺は分かっている。
「……」
いくら可愛く振舞っていようが、この子の本性は敵とみなした相手にはとことん敵意を剥き出しにする腹黒系男子。つまり可愛らしく振舞っているということは、そういうことなのだ。
「ふわぁ〜」
俺はわざとらしく背伸びをして河相くんを引き剥がしベッドから出る。そしてそのまま何事もなかったように部屋を出て、離れたフリをして扉に耳を当てた。
「………チッ、据え膳なのに無視しやがった」
普段聞くような河相くんの可愛らしい声ではなく、まさに男のドスの効いた声が聞こえてくる。やはり起きていたか…、東條くんが好きなはずの河相くんがなぜ俺にそんなアピールをするのか…、やはり二度も助けてしまったのが原因だろう。
「(いやでもなぁ、あれは無視できないって…)」
とはいえ東條くんは綾人と成立してるので再び東條くんへ向けさせるのも気が引ける。一先ず一階に降りてトイレに行き、部屋に帰ってくれば河相くんはまだ寝ているフリをしていた。
「(無駄なんだけどな…)」
さっさと起きて家に帰ってほしい、と思いながら起きてもらうかと体を揺すってみた。
「河相くん、朝だよ」
何度か揺すれば、河相くんは可愛らしく声を出し、俺の手にほっぺをくっ付けてきた。……いやこうして見るとホントに可愛い、じゃなかった、ええい起きろ!
「かーわーいーくーん?」
「んぅ…!た、叩かないでぇ…!」
ペチペチとほっぺを軽く叩けば流石に起きてきた。むぅ、とほっぺを膨らませて眠い目をこする。
「___さん、乱暴はしないでください」
「ごめんごめん、なかなか起きないからさ」
向こうが演技をしてくるならこちらだって演技で返そう。
「そろそろ朝ごはんができる頃だから、食べたら家に帰れるよね?」
迷子を保護したスタッフみたいな態度で聞けば、河相くんは少しムスッとした。
「家まで送ってほしいです」
「いや君の家を俺は知らんし」
そう答えれば河相くんが俺の腕に抱きついてきて目を潤ませる。うぐ、やめろやめろ…!
「家まで案内しますよ?ぼく…その…」
恥じらいながらそう言ってくる河相くんの言葉を、俺は必死に遮る。今日は朝から用事があるんだ、と言えば河相くんは急に俺の首に手を回してきた。
「どうしても、ダメですかぁ…?」
きゅるん、という効果音が似合うそうな、渾身の可愛さを至近距離で俺に浴びせてきた。背中を押されたらキスしてしまいそうな距離。
「(ええい考えるな!こいつは男!!)」
嫌ではないとか、満更でもないとか考えるな!俺はダメだよ、と言って引っぺがそうとした瞬間、扉の方からガタッという音がしてそちらを見れば、物凄い顔をした綾人が震えていた。
「(あ、これは…)」
どう見ても勘違いしかしない構図を見られてしまった。案の定、そうだと勘違いした綾人が物凄い勢いでこちらにやって来た。
「おいてめぇ!なんでお前がここに居るんだよ!」
「ひゃぁ!___さん怖い!」
河相くんを引き剥がそうとした綾人から逃げるように、河相くんは俺にひしっと抱きついてくる。おいこらやめろ!これ幸いとそういう顔をするな…!
「おい兄貴!これはどういうことだよ!」
「ええと」
いつにも増して混乱しているのか騒ぐ綾人に、河相くんは俺に抱きついたまま、何故か誇らしげな顔をして話し出す。
「昨日、危ない目に遭ったぼくを、___さんが助けてくれたんです!とってもカッコよくてぇ…、怖くて心細かったぼくと一緒に寝てくれたんです」
ねー?と俺に対して首を傾げながら笑いかけてくる河相くん。事実ではあるが端折って伝えないでくれ…!
「い、一緒に寝て…?!」
おいやめろ、そこをピックアップするな!
「とっても優しかったですよ?」
そして意味深な発言をするな…!
「ま、マジかよ兄貴…!」
「いや!なんもしてないから!」
俺は慌ててしまい、やってはいけない事をしてしまった。強く否定するのは肯定しているのと同義…!それを聞いた河相くんは何故か嬉しそうに俺の胸にほっぺをくっ付ける。
「そうですよ、これから、ですもんね?」
「はぁ?!」
そして綾人に宣言するように河相くんは堂々と言い放った。
「ぼく、___さんのことが好きなんです!恋人になってください!」
「はぁぁぁ?!」
お前、俺の知り合いに手を出したんか?!と綾人が俺の左手を掴んで揺り、河相くんは俺の右手を掴んで好き好きアピールをする。
「(何この状況…)」
誰か止めてくれ、と思いつつ河相くんを見れば、本当に好きだという目とぶつかり、俺はつい目を逸らしてしまった。
「(ぐぬぬ…、この子は男…!)」
可愛らしいが男なのだ…!と俺は必死に自分に言い聞かせるが、それしか拒絶するとこないの?とふと思い、俺は自覚してしまう。
「い、いやいや、俺は君のことまだ全然知らないのに…!」
「知らないのに手を出したのか?!」
断ろうとしても綾人がノイズになってしまいうまくいかない。河相くんはそんな俺たちを見て「ふふ」っと笑い、微笑んだ。
「じゃあ、これからもっとぼくのことを知ってください」
ね?と言われて俺は顔が熱くなり、狼狽えてしまった。
(END)-
綾人「おい!俺の兄貴だぞ!」
河相「ぼくの王子様ですぅ!」
主人公「(綾人はどっちに対して怒ってんだ…?)」
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