ウイスキーボンボンと河相くん

バレンタインデーに可愛らしくオシャレをした河相くんが、気合たっぷりにラッピングしたチョコの箱を俺に差し出している。


「___さんの為に頑張って作りましたぁ」


どうぞ、と言われて俺はそれをぎこちなく受け取る。


「(……変なもんとか入ってたりしないよな?)」


いや別に河相くんは病んでる系じゃないし大丈夫、だろう。食べて欲しいなぁ、という眼差しで河相くんが見てくるので、その場で丁寧に開ければ嬉しそうに笑った。


「お、カップケーキだ」


見た目にこだわられて作られたそのカップケーキは、そこそこの大きさだ。


「じゃあ、いただきます…」


そう言って一口食べ、噛み締める。うん、美味いな。


「ど、どうですかぁ?」

「美味しいよ、上手だね」


その俺の言葉を聞いた河相くんが小さくガッツポーズをしてから可愛らしく喜んだ。時々本性が現れるのは一種のチキンレースなのか?


「あ、あのぉ…」

「ん?」


一気に食べたら怒られそうなのでゆっくり味わって食べていれば、河相くんがもじもじしながら上目遣いで俺を見てきた。


「___さんからのチョコも、欲しいなぁ」


うっ、そう来ましたか…。欲しい欲しいと目で訴えてくるが、いま俺の手元にあるチョコは…アレしかない。


「(ウイスキーボンボン…、河相くんは未成年だ、確実に酔ってしまう)」


しかし無いよ、なんて言えば悲しませてしまうし…、仕方がない、腹を括るかと俺はアレを持ってくる。


「はい、どうぞ」

「わ!嬉しい…!」


パクパク食べられないように一つチョコを取り、あーん、と言って河相くんの口に持っていけば、嬉しそうに口を開けて食べてくれる。


「えへへぇ…」


うん、一つだけしかあげないけど十分だろう。河相くんは大層満足そうにしているので、ウイスキーボンボンを河相くんの手の届かない所へ移動させといて俺はカップケーキを食べ終える。


「本当に美味しかったよ、ありがとう」

「もう食べたんですか?カッコいい〜」


それはよく分からん。


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それから数分後。


「兄貴いるかー?ってなんだよ、河相きてたのか?」


トントンと扉をノックして入って来た綾人が、河相を見て不機嫌そうな顔をした。


「あぁ?!なんか文句あんのかこの野郎!」

「うおっ?!」


そして河相くんは俺の腕に引っ付いたまま、そんな綾人にキレ気味にやばいハンドサインをしながら怒鳴った。


「そもそも恋人のぼくが___さんと二人きりでイチャついてるところに邪魔しに来てんじゃねぇよ!クソホクロ!」


その罵りは同じホクロ持ちの俺にも該当しないか河相くん?


「ど、ど、え?は、なん、兄貴?」


河相くんの変貌ぶりに困惑している綾人がちょっと面白くて笑えば、河相くんが不機嫌そうに手に力を込める。ちょ、ちょっと痛い。


「___さん!今はぼくとの時間だろう?!ぼくだけを見ろよ!ぼくだけの王子様なんだから責任持てよなぁ!!」

「あー、分かってる、分かってるから、よしよーし」


落ち着いてーと頭を撫でれば幸せそうな顔をした。


「……なんなんそれ?」

「酒入りチョコを食べて酔ってるんだよ」


綾人も気を付けろよ?と言えば、怖…と言ってそのまま音を出さずに扉を閉めて逃げていった。


「___さん、___さん、ぼくだけの王子様〜、食べちゃいてぇよ〜」


……多分、酔っ払って本性剥き出しになってるんだと思うんだが、これを見るにやはり俺は受けなのだろうと確信した。


「(可愛くても、男の子だもんな…)」


一つ対応を間違えればこのまま押し倒されそうでヒヤヒヤしながら、俺は河相くんの酔いが覚めるのを必死に待った。


(END)-

綾人「……河相、寝た?」

主人公「寝たよ…、東條くんとかには内緒にしといてあげなよ?」

 

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