ウイスキーボンボンと旗野くん

 冬の時期、ふらっと立ち寄ったデパートで実に美味しそうなウイスキーボンボンを発見し、俺は迷う事なく購入した。

 

「(そうだ、龍二くん用のチョコも買っとこう)」

 

 機嫌が良いのでついつい財布の紐が緩んでしまう。まぁ、このくらい問題ないだろうと買い物を済ませ、軽い足取りで家へと帰宅する。

 

「(お、ちょうど高校生どもが遊びに来ている……)」

 

 しっかりと龍二くんの靴も確認して、二階へと上がり綾人の部屋の扉を軽く叩く。

 

「はーい……って、兄貴かよ」

 

 何の用? と不機嫌そうな顔をした綾人が出迎える。どうやらテレビゲーム中だったらしく、中断されたのが気に障ったらしい。

 

「___さん!」

 

 訪問者が俺だと分かった龍二くんがパタパタと近寄ってきた。

 

「ほれ、綾人たちにお土産ー、旗野くん、ちょっと借りるよ」
「お土産?! おー! 気が利くじゃん!」

 

 ほれとデパートで多めに買ったお菓子を差し出せば目の色を変えて喜ぶ綾人。しれっと龍二くんを借りて俺の部屋まで連れて行く。

 

「美味しそうなチョコを見付けてね、一緒に食べよう」

 

 龍二くんを座らせ、買ってきたチョコを机に置いておく。温かい飲み物を取ってくるから待ってて、と伝えて早足で一階へと向かい飲み物を用意した。

 

「(ちょっと時間かけ過ぎたかな……)」

 

 そう思いつつ部屋に入って飛び込んできた光景に俺は固まった。

 

「___、さん!!」

 

 真っ赤な顔をした旗野くんが、あろうことかウイスキーボンボンを口にしていた。た、食べちゃった?! 食べちゃったの!?

 

「さ、先に食べちゃったの……!?」
「とても、おいひいです!」

 

 あぁ、ダメだ、完全に酔っ払っとる。俺は飲み物を机に置いて扉を閉め、これ以上、ウイスキーボンボンを食べられないように龍二くんの手の届かないところへ避難させる。

 

「りゅ、龍二くんのチョコはこっちだよ……!」
「___さんが、二人いるぅ……」

 

 嬉しい! と言って俺に抱きついて甘えてくる龍二くん。このBL漫画の世界では、ウイスキーボンボン数個程度で未成年は酔っ払ってしまうのだ、それは龍二くんも例外ではない。

 

「___さん……、好きです、あいひてます」

 

 ぐりぐりと俺に顔を押しつけて甘えてくる龍二くん。一生懸命に照れながら接してくる姿とも、綾人から聞いているようなクールな姿とも違う。

 

「(めちゃくちゃドストレートに甘えてきとる……)」

 

 好き好きと言い続ける龍二くんの背中をポンポンと優しく叩けば、嬉しそうな声を上げた。

 

「(……可愛いな)」

 

 いやいや、この状態では綾人たちの所には返せないぞ? でも今何時だ? 酔いはどのくらいで醒める?

 

「___さん、___さん」
「あー、よしよし、俺も好きだよ」

 

 そう伝えれば龍二くんはぽやぽやした顔で俺を押し倒してきた。

 

「ちょっ?!」

 

 それはマズイですよ?! と思っていれば龍二くんはぬいぐるみを抱きしめるように俺をぎゅうっと抱きしめてきた。

 

「(……いや大丈夫そうだ)」

 

 襲われはしないようだと一安心する。腕時計で現在の時間を確認する。えーと……あと一、二時間経っても酔いがさめなければ家まで送ってあげるか……。俺は珍しい状態の龍二くんと過ごす事にした……。

 

(END)―
 旗野「二人目の___さんが、触れない……!」
 主人公「そう言いつつぺたぺた俺のことを触らないで……! ちょ、くすぐったいから……!」

 

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