秀才くんと主人公3

俺は今、とことん厄介なフラグに頭を抱えている。数日前、東條くんへ冗談のつもりで言った「副会長からの告白」がまさに起こり、それで落ち込んでいたその"副会長"と出会い、不可抗力で手を差し伸べてしまったのだ。

 

「(眼鏡を踏まれてしまったから泣いたのではない、絶望していたところに優しくしてもらえたから感謝されたんだ)」

 

なんてこった、そんな罠あるかよ。眼鏡を踏んでしまった時にダッシュで逃げるのが正解だったの?あんな周囲の目が痛い状況で??

 

「(さ、流石に無理…)」

 

綾人たちに探りを入れて、それとなく秀才くんのことを聞いてみれば、真面目で仕事熱心、几帳面で礼儀正しい。東條くんの話ぶりからとても東條くんを慕っており、釣り合うために日々努力を積み重ねていたと…。

 

「(そして振り向いてもらえなくて遂に想いが爆発、想いをぶち撒けて撃沈、絶望の中、俺と出会ったと…)」

 

うーん、非常にやばい。東條くんを好きなのは今も変わっていないとはいえ、フラれてしまっているのだ。秀才くんもそれはもう分かりきっているし、それでも側に居たいと思ったのだろう。どうしたものかと考えていれば、不意にスマホが鳴った。

 

「……!うっ、秀才くんから…」

 

画面を見れば秀才くんからのメッセージ。

 

「今週末、お会いできませんか?…ですか」

 

少し考え、友達と遊びに行く予定がある、と返答すれば、少し間を置いて返事が返ってくる。

 

「では、お会いできそうな日を教えてもらえませんか?僕が都合を合わせます…、うぅ…」

 

丁寧に、そして絶対に会いたいのだと引かない秀才くん。これはもうルート入っちゃってる…か?

 

「……」

 

いやそうと諦める訳にはいかない。どうにかしてこのフラグを処理しなければ…!とは言え綾人と同じ学校の子だ、無視したり邪険にするのは色々とマズイ。ともかく会える日を教えるしかないかと返答すれば、丁寧にお礼を言われる。

 

「(ホント、優等生って感じだ)」

 

まさに生徒会にいる人のイメージそのまんまである。風紀委員とかやってそう、いや偏見か?

 

「何度もすみません」
「い、いえいえ…」

 

そうして約束の日になりまた例のカフェでお茶をする。何度目の菓子折りだろうか?僕のオススメのお菓子です、と差し出され、ありがとうと素直に受け取る。

 

「(今日は絶対に奢らない、ここでまた奢ってしまうと無限ループになる)」

 

そしてなんとか今日、このフラグを別の人になすりつけるか、可哀想だがポッキリと折らなければならない。傷心の子に手を差し伸べてしまうという特大のフラグを立ててしまっているが、諦めない、俺は諦めないぞ。

 

「その…、この前は話が出来なかったのですが」
「(む)」

 

この前、と言うと綾人たちに邪魔をされたやつだろう。なにやら相談をしてきそうな雰囲気だったが…。

 

「もしかしたら、生徒会長や綾人くんから聞いているかもしれませんが、実は僕、フラれたんですよ」

 

うぐ、目を伏せながらその発言はマズイ。これアレじゃん、貴方に救われたんですって言って告白されるやつじゃない…???

 

「それでヤケクソになって、命を絶とうとして、止められて…、放心状態だったんです。眼鏡を落としてしまって、踏まれて割れてしまって…」

 

秀才くんが眼鏡を外して大事そうに触る。

 

「たくさん泣いて、大声を出して、___さんに新しい眼鏡を買ってもらえた時、不思議と心が軽くなったんです」

 

再び眼鏡をして俺を真っ直ぐ見る秀才くんの表情はキリッとしている。

 

「あの日、弱い僕は生まれ変わったんです!___さんのお陰でまた前を向いて生きようと思たんです!」

 

わぁ、なんてキラキラした目で…。良かったねと、淡白な声で言えば、ガシッと手を両手で掴まれる。

 

「(うわ、来るか?!)」

 

どうしようもない、こうなったら好きな子が居るとか彼女が居るとか言って…!

 

「___さんには感謝しきれません!どうか貴方のお役に立ちたいです!!」

 

………ええと、これは告白として受け取っていいのか?いやそれにしては斬新過ぎるだろ…、BL漫画的には同じ意味になるのだろうが、本人的には言葉通りな気もする…。

 

「や、役に立ちたい…?」
「はい!そうじゃないと気が済まないんです!」

 

えーと、ともかくその手を離してほしいのだが、返答に困るな?!すごい善意なのだとひしひしと伝わってくる。これは、完全に懐かれている、そんな顔をしている。犬ならば尻尾がブンブン振られていることだろう。

 

「……手を、離してもらってもいいかな?」
「あ、すみません…!つい感情が昂ってしまい」

 

俺の言葉に慌てて手を離し、申し訳なさそうに眼鏡を触る。困惑する俺に対し、秀才くんは眉を八の字にして上目使いで俺を見てくる。

 

「ご、ご迷惑でしたか…?」

 

こ、断りづらい…っ!そんな目で俺を見て来ないでくれ、君が良い子なのはもう分かっている。とても真面目で几帳面、尊敬する相手にはとことん尽くすタイプだ。

 

「(ぐぬぬぬ…)」

 

冷たくあしらえない、邪険には出来ない。

 

「………なにか、困ったことがあったら…、た、頼るね…?」
「……!!」

 

苦笑いでそう答えれば、秀才くんはとてもとても嬉しそうに顔を輝かせながら笑う。こんな風に懐かれるのは慣れていない。なんだか在りし日の、まだ俺に素直に懐いていた綾人を思い出してしまう。

 

「改めて、よろしくお願いします!」
「よ、よろしく…」

 

何をだよ?!と言いたかったが、俺は言葉を飲み込んだ。

 

(END)-
秀才「あ、今日は僕に奢らせてくださいね!」
主人公「(秀才くんはボーダーコリーかなぁ…(遠い目)」

 

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