椋木VS三郷
その日は雲ひとつない快晴で、太陽の光がさんさんと照りつけていた。
「(椋木くん、黒い服ばっかだから熱が集まって…暑そうだな)」
今日みたいな日は特に、猫背で歩いているせいで顔の影が一層濃い。前見えてるのかな?なんて思ってしまう。
「……大丈夫?」
「だ、大丈夫、です…」
いつも通りの声だな、まぁ、水分補給をこまめに摂らせて、適度に涼ませるか…と思いつつ、今日はショッピングモールにやって来た。一緒に生活をする事になったので、不足している物が沢山あるのだ。
「じゃあ、手分けして買おうか、俺は食品買ってくるよ」
「は、はい、雑貨は…ま、任せてください」
行ってくるー、と手を振って食品コーナーへ向かう。相変わらず椋木くんの家にある食材は少ないので、調味料からしっかり取り揃えるかと意気込み、カゴに入れていく。
「(育ち盛りなのに、もっと食べさせないと…)」
いやまぁ、体はもうデカいんだけど…、そうじゃなくてちゃんとしたご飯を食べさせたいんだよなと食品を選ぶ。今日は俺が作ろう、何にしようかね?と思っていれば不意に声をかけられた。
「あー!綾人の兄ちゃんやん?ぎょうさん買っとんな?」
「み、三郷くん」
予想外の人物との遭遇に驚いた。いや生活圏が同じなのだからいつ会ってもおかしくはないか…。俺が持っているカゴの中身を見て三郷くんは不思議そうな顔をする。
「一人か?綾人は居らんの?」
家族と友達には実家を出たことは伝えてあるが、この様子だと三郷くんは綾人から聞いてないっぽい様子。
「えーっと…、実は俺、実家を出たんだよ」
素直に伝えるかと、あははと笑って話せば、三郷くんは驚いた顔をする。
「そうなんか?!あー…なるほど、だからあないに機嫌悪かったんか…」
どうやら最近の綾人は機嫌が悪いらしい、周りに当たり散らしてないだろうな…?
「それにしても重そうやな…そや!手伝ったるわ!」
「え、いや…!」
大丈夫、と言う間もなく三郷くんは俺から簡単にカゴを奪った。三郷くんもガタイが良く体が大きいので難なく重いカゴを持つ。
「他に何を買うんや?家は近いんか?」
善意100%で手伝ってくれる三郷くん。これ家まで着いてくる勢いだな…、どうしよう…と思っていれば唐突に背後から抱きしめられた。
「な、なにして、るんだ?」
ぎゅっと俺を抱きしめるのは椋木くんだ。どんな表情をしているのかは見えないが、声を聞く限り絶対に三郷くんを睨んでいることだろう。てかもうかそっちの買い物は終わらせたのか、早っ。
「な、お前は…えーと、……誰や?」
どこかで見たことあるような…?という顔をする三郷くん。いや一度見たら忘れることなさそうなんだけどな、君ら。
「てん、……___、さんに何か用…?」
そして名乗らない椋木くん。三郷くんは懐疑的な視線で椋木くんを見て、少し悩むがすぐ思い出したのか手を叩いた。
「あー!お前、保健委員の椋木やんけ!何してるんや?」
三郷くんの問いに椋木くんは低い声で「貴様には関係ない」とか言ってしまう。お、お願いだから穏便に頼むよ。
「どういう関係なんや?綾人の兄ちゃん」
「その」
「か、関係ないと言ってるだろ!カゴ、返せ!」
心底不思議に聞いてくる三郷くんを無視して、椋木くんがカゴを奪い取ろうとするが、三郷くんは抵抗した。
「なんやねん!関係ないのに一緒に居るんか?」
「き、貴様に関係ないと、言ってるんだ!」
ぎゃんぎゃんと言い合う二人。体の大きな二人が言い合っていればそれはもう目立つ、目立つのでめちゃくちゃ周囲に見られる。
「ちょ、ちょっと二人とも…!そこまで…!」
これ以上騒ぎが大きくならないうちに、俺は必死に二人の間に立って二人を引き剥がす。
「こんなところでケンカしない…!」
他の人の迷惑だから、と言えば二人は落ち着いてくれた。
「えーと、その、三郷くん?」
「なんや?」
説明をしないとこの場で納得しなさそうなので、俺は打ち明ける事にした。
「その、実家を出て今は椋木くんの家に居るんだ」
「へ?そうなんか?」
俺の言葉を聞いた三郷くんが驚く。俺と椋木くんを交互に見て、そういうことかぁ…と呟いた。
「なんやそういうことなら早よ言いや、オレはてっきり…」
「わ、分かったんならカゴを返してとっとと失せろ…」
敵意むき出しの椋木くんを宥め、俺も三郷くんへお願いをする。
「まぁそういうことだから、カゴ返してくれないかな…?」
手伝ってくれるのは有り難いけど、と言って手を差し出すが、三郷くんは少し考える仕草をして、俺に聞いてきた。
「綾人は知っとるんか?」
その言葉に俺は顔を引きつってしまう。それを見た三郷くんはなるほどなぁ、と呟けばにっこりと笑った。
「まぁええわ、それぞれ事情があるんやな!で、他に何を買うん?」
手伝う気満々である。善意なんだろうけど椋木くんから伝わってくる敵意が怖い。これ帰ったらヒトガタとかに名前書くんだろうな。
「必要ない」
「これも何かの縁やて!」
バシバシと椋木くんの肩を叩いて笑う三郷くん。椋木くんは心底嫌そうな顔を、している気がする。顔の影が、影が濃い…。
「あ、ありがとう…」
これはもう俺が歓迎ムードを出すしかない。これ以上、ここで騒ぎになるようなことをすれば店員さんが来そうだ。椋木くんを安心させる為に手を掴めば、しぶしぶ納得したようで、残りの買い物を三人で終わらせ、やっぱり三郷くんは家にまで着いてきた。
「ほーん、意外にオレの家に近いな?」
ご近所さん、にしては遠いか、と呟いている三郷くんから椋木くんは袋を奪い取るとさっさと帰れ、という態度を取る。
「お、お前、学校の時と態度、違いすぎん?」
「___、さんに近付くからだ…」
そうですか、と両手を見せる三郷くんが、またなー、と言って手を振り離れていく。ブツブツと椋木くんが物騒なことを呟いているが、とりあえず大事にならなくてよかったと息を吐く。
「早く買ってきたもの冷蔵庫とかにしまおうか」
鍵を開け家に入り玄関を閉めれば椋木くんが抱きついてきた。
「天使サマ…」
不安そうな声だ、まだ不安定なところがあるからなぁ、と思いつつこれはどちらかと言えば、戸惑っている時の椋木くんだなと理解する。
「突然だったから驚いちゃったね」
よしよしと体を優しくポンポンすれば椋木くんは離れてくれる。椋木くんと三郷くんか…、両者に挟まれた時はそのデカさに俺の背が縮んだのではと錯覚を覚えた。
「(性格は真逆だよな、正面から突撃する三郷くんと裏で行動する椋木くん)」
色々思うところはあるが、とりあえず買ってきた食品を冷蔵庫とかにしまわないと、俺はキッチンに向かった。
(END)-
椋木「(ブツブツ言いながらヒトガタに三郷の名前を書いている)」
主人公「火はつけちゃダメだからな…?」
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