秀才くんと主人公1

その時の俺は酷く取り乱していた。

 

「あなたはずっと俺の憧れで…!だから俺はあなたに釣り合う人間になりたかった…!なのにあなたは俺を選んではくれなかった!それなら俺の人生には何の意味もない!死んでやる!!」

 

ずっと抱えに抱えていた生徒会長への想いを爆発させてしまい、ハサミを自分の喉に向けてそう叫んでしまった。苦しくて辛くて、こんなに敬愛しているのに振り向いてもらえなくて…。それでも生徒会長は俺を見捨てることなく、馬鹿な真似はよせ、と止められる。

 

「……秀才くん、君にはたくさん助けられているんだ、一人で抱え込まないでもっと俺たちを、俺を頼ってくれ」

 

ハサミを取り上げられ、怒られるのではなく心配された。

 

「何の意味もないだなんて言わないでくれ」

 

そう言って手を差し伸べてくれる生徒会長。うぅ、やっぱり俺にとってあなたは、俺の憧れなんだ…。

 

「(はぁ…)」

 

その後、生徒会長と話して落ち着きを取り戻し、自分のしたことに落ち込みながら学校を終えて足取り重く歩く。家に帰らねばならないが、全くその気にならずフラフラとしてしまう。

 

「(生徒会長に迷惑をかけるだなんて…)」

 

何という失態だ。しかしどんなに想いに応えてもらえなくても、やはり憧れであることに揺るぎはなくて、少しでもお側に居たいのだと実感した。

 

「はぁ…」

 

ため息ばかりが出てしまう。明日俺はどんな顔をして生徒会長に会えばいいのだろうか…?そんなことを考えながら歩いていれば、不意に前から歩いて来た人と肩がぶつかってしまう。

 

「わっ!」
「いて、おい!前見ろよな!」

 

舌打ちをされて相手はさっさと歩いていく。俺はバランスを崩してその場に転けそうになり、その拍子に眼鏡が地面に落ちてしまった。

 

「(あ…)」

 

眼鏡がないとよく見えない。歪んだ視界で落ちた眼鏡を拾おうと手を伸ばしたが、運悪く他の通行人に眼鏡が蹴られてしまう。

 

「(あ、ああ…)」

 

歪んだ視界で必死に眼鏡を追う。どんどん蹴られて離れていった眼鏡になんとか追いついたと思ったら、その瞬間に踏まれてしまった。

 

「(あああ…)」

 

あぁ、なんということだろうか。今日の俺はとことんダメだ。惨めで、けれども自業自得な気がして…。

 

「うぅ…」

 

思わず涙が溢れ出してしまう。地面にへたり込み無気力に項垂れていれば、上から戸惑った声が降ってきた。

 

「あ、あのぉ…め、眼鏡踏んじゃってごめんな…」

 

顔を上げれば大丈夫か…?と聞いてくる声の主が俺を見ていた。歪んだ視界のせいで髪色が紫であることしか分からない、声的に男性だろうか?

 

「あー、そのー、弁償するよ」

 

だから泣かないで、ほら立てる?と手を差し伸べてくれる男性に、こんな俺に優しくしてくれることが嬉しくて、申し訳なくて…。

 

「うぅ…うわぁああん!」

 

いろんな感情が混ぜこぜになって溢れ出し、俺はついに盛大に泣き出してしまう。止まらない涙に男性の困惑した声が聞こえてくる。

 

「あ、あぁ…、ごめん、ごめんよ」

 

俺は今、見ず知らずの人を困らせている、それでも涙が止まらなくて、泣き続けてしまう。

 

「えーと、ほら、よしよし…」

 

わんわんと泣いていれば、ポンポンと優しく背中をさすられ頭を撫でられる。ごめんね、ごめんね、と優しい声が心地良く感じて、少しずつ落ち着いてくる。

 

「ほら、そのぉ…眼鏡買いに行こう、ね?」

 

弁償するから、安心して?と言って泣き止んだ俺の手を取って立ち上がらせてくれる。

 

「す、すみませ…っ」

 

泣き止んだのに心優しい男性にまた泣きそうになる。

 

「いや、眼鏡踏んじゃったの俺だし…」

 

歩ける…?と聞いてくれるので頷けば俺の手を引いてゆっくりと歩き出してくれる。

 

「あ、ありがとうございます…、その、お、僕は秀才と言います」

 

あなたは?と聞けば少し間を置いて名乗ってくれた。

 

「___だよ」

 

___さん…、なんて素敵な響きなのだろう。そうして眼鏡屋に行き___さんに新しい眼鏡を買ってもらうことになる。

 

「(やっとよく見える…)」

 

新調した眼鏡で辺りを見回し、俺の隣で眼鏡代を払っている___さんの横顔が目に止まった。

 

「(……何処かで見たような?)」

 

誰かに似ている気もするが…、見られていることに気が付いた___さんが確かめるように聞いてくる。

 

「いい感じ?」
「え、は、はい」

 

眼鏡、のことだよね?優しい声で聞かれて思わずドキッとしてしまう。年上の男性だったんだとか、右目の下にホクロがあったんだとか、そんなことを考える。

 

「ホントに踏んでごめんね?」

 

眼鏡屋を出れば「気を付けて帰ってね」と言って離れていくので、俺は思わずその腕を掴んだ。

 

「あ、あの!」

 

驚いている顔の___さんに俺は頭を下げる。

 

「本当にありがとうございます!その、お礼をさせてください!」

 

お願いします!と言えば___さんは別に良いよ、と断ってきたが、それでは気が晴れないんです!と頼み込めば、じゃあ…と口を開いた。

 

「ご飯、奢ってもらおう、かな…?」
「そ、そんなことで良いんですか…?」

 

あぁ、なんて優しいのだろう…!___さんに案内されて、俺たちはジャンクフード店に入った。

 

(END)-
主人公「(ああ、どうしようこのフラグ)」

 

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