ウイスキーボンボンと椋木くん
それは冬に買い物に出かけた時のお話。
「お鍋でもする?」
「てん、___さんが食べたいなら…」
相変わらず椋木くんは俺のことを天使さま、と呼ぼうとしてしまうようで、よく言い直している。それ俺がいないところで言ってないだろうな…?
「じゃあ買う物は…」
俺は買い物カゴを取ってカートに乗せ、食品コーナーに向かおうとした時、ふととある商品が目に止まった。
「(お、もう売られてるのか…)」
そういえばもうそんな時期か、バレンタインが近付いて特設のコーナーが設けられていて、俺の楽しみのひとつであるウイスキーボンボンなどが並べられている。
「…___、さん?」
どうかしました?と聞かれて、俺はなんでもないように答えた。
「今日は寄せ鍋にしようか!」
そう笑って答えれば椋木くんも照れ気味に微笑んだ。
「………」
そうしてその日の買い物を終え、鍋を食べた次の日…。
「(あれ…?)」
大学から帰宅して、リビングに入って真っ先にある物が目に止まる。それはチョコの箱だ。
「しかもこれ、ウイスキーボンボンじゃん…」
しかも既に開けられており、確認してみれば何個か食べられている。
「………っ」
え、椋木くん食べた?!食べちゃった?!俺はすぐに椋木くんの部屋に駆け込んだ。
「く、椋木…くん?」
部屋に入れば、椋木くんは部屋の隅に居た。大丈夫か?と思いながら様子を窺いつつ近寄れば、椋木くんが顔を上げた。
「て、天使サマ…!」
顔を赤くして、ぐずぐずと泣いている椋木くんを見て驚いた。案の定、酔っ払ってるようだ。
「うっ、ひっく、天使サマァ…!」
酔っ払ってるせいなのか、泣いてるからなのかよく分からないが、ひっくひっく言いながら俺を抱きしめて泣き続ける椋木くん。
「だ、大丈夫?どうしたの…?」
なんかあったのか?と心配になってきて、俺は椋木くんの背中をポンポンと優しくさすれば、椋木くんはわんわん泣き出した。
「か、カミサマと天使サマに近付く不届き物を、始末できない、俺は、出来損ないです…っ!」
いや酔ってるだけだな、発言の内容的に平常運転なようだが、椋木くんは申し訳なさそうに話す。
「俺のカミサマなのに!俺だけの天使サマなのに!あの俗物ども、堕天使め、天使サマを誑かす悪魔どもめ…!ひっく」
絶好調にブツブツと泣きながらそんなことを言う椋木くんはまるで子供のようだ。弱音を吐いたりもするが、うん、いつも通りだな。
「よ、よしよし、椋木くんは頑張ってるから…」
とにかく落ち着かせて寝かせてしまった方がいいかな?と思い、よしよしとすれば椋木くんは俺をぎゅうっと強く抱きしめ直し、持ち上げた。
「え、ちょ…?!」
そしてそのまま部屋を出ようとする。
「俺の天使サマだって、俗物どもに思い知らせてやる…!!」
あろうことか酔ったまま外に出ようとする椋木くんをなんとか止めようと、俺は咄嗟に部屋の角っこを掴んだ。
「お、落ち着いて!椋木くん!」
どうにか抵抗できているようだが、このままではマズイ!俺は必死に椋木くんを落ち着かせようと説得を試み、一時間ほど攻防を繰り広げた。
(END)-
酔いが覚めた後の話
主人公「と、ところであのチョコどうしたの?」
椋木「この前の買い物で、天使サマが、食べたそうに見ていらっしゃったので…」
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