椋木くんと主人公5

参考書を読み込み、もしもの為に役立ちそうなものなどを持って家の外に出て少し歩けば、椋木くんが道の角から顔を出して俺が来るのを待っていた。

 

「(こっわ…)」

 

前髪のせいにしては顔に影が掛かりすぎだろと思いつつ近寄れば、安心した顔をする。

 

「き、来てくれた」
「約束したでしょ…」

 

疑り深いな…、と思っていれば椋木くんに手を掴まれ家へと連れて行かれる。家に着けば流れるように俺の荷物を奪おうとするので全力で阻止した。

 

「椋木くん」

 

信じて、ね?と少し強めに言えばオロオロとながらも奪うのをやめてくれる。

 

「(ふぅ…堂々と、はっきりと言えば話は聞いてくれるな…)」

 

しかしあまり強すぎる言い方は避けた方がいいなと思った。体格で勝てないのは理解しているし、一線を超えた行動をとってしまうことも分かっているのだ。

 

「___…さんの場所、作っておき、ました」

 

口角をゆっくりと上げてそう言う椋木くん。案内されて辿り着くのは例の部屋なんだけど、たった数時間で劇的に模様替えされていた。壁一面に貼られていた写真もしっかり貼り直されているのを見て、えげつない行動力だなとちょっと引く。

 

「(俺の場所と言いながら寝るとこは一つ、一緒に寝ようねってことですか)」

 

まぁ流石にベッドを短時間で増やせはしないか。着替えとかの荷物をどこに置けばいいと聞けば金庫を指差される。

 

「(なんでこの子は俺から荷物を奪い取りたいのだろう…)」

 

信用していない、安心できない、……と言ったところか。小さくため息を吐いて、俺は首を軽く横に振る。

 

「ダメだよ」

 

そう言えば椋木くんは爪を噛み、不機嫌そうな顔をしたのでちょっとたじろいでしまう。強行手段に出そうな雰囲気に俺は平静を装いながらお願いをする。

 

「す、スマホと充電器だけは常に持ってていい?」

 

手を合わせてお願いをすれば、椋木くんは渋りつつも許可を出してくれた。よし、椋木くんが問答無用なタイプじゃなくてよかった。色々と話し合い、ルールを決めることでなんとかバイトにも行かしてもらえた。

 

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そうして椋木くんの家で寝泊まりし始めて数日が経ったある日。この生活にも慣れたなぁ、我ながら適応するのが早いなぁ、などと思いつつバイトを終えて椋木くんの家に帰宅する。相変わらず盗聴器を堂々と渡され大人しく従うことで多少の束縛で済んでいる。誘拐された時は終わったと思ったが…。

 

「ただいま…あれ、寝てる」

 

例の部屋に入れば、パソコンの前で椋木くんがすやすやと寝落ちしていた。珍しいな、今までは必ず出迎えていたし、俺の前では寝ようとしないので、初めて見る椋木くんの姿にちょっと嬉しくなった。

 

「(いやいや…)」

 

ダメだぞ、そういうの…。とはいえ机に突っ伏して寝ているのは体に悪そうだなと思い、なんとかベッドで寝かせられないかと体を持ち上げようとしたが、まぁ無理ですよね。

 

「(うわ、パソコンの画面もえげつないな…)」

 

よくないとは思いつつ目に入ってしまったのだから仕方がない。そこには凄まじいファイル量の東條くんの画像。ファイル番号も三桁…ですか。

 

「(俺はこれより少ないとは思うけど)」

 

東條くんよく今まで無事だったな、寧ろなんで俺は早々に誘拐されたんだよ。

 

「椋木くん、こんな所で寝たら体に悪いよ」

 

ユサユサと揺らしても反応なし、完全に熟睡しているなと確認する。

 

「……ふむ」

 

なんとなく、なんとなく気になって部屋の電気を点け、椋木くんの前髪を上げてみる。普段は髪と影でよく見えない顔も、流石に髪を上げればよく見える。

 

「(お、おおぅ…)」

 

いや、この世界なんだから当然だと思っていたが、めちゃくちゃイケメンだとビビる。寝ていてもはっきりと断言できる、マジで例に漏れずイケメンなんですよ。

 

「(もったいないなぁ)」

 

それにしても、こう寝顔を見ていればまだ高校生なんだなと理解する。体は大きいけれどまだ幼さが感じられると言うか…。

 

「……___、サマ…?」
「あ」

 

流石に部屋の電気が眩しかったのかうーん、と小さく唸りながら椋木くんが目を開ける。うわ、マジで顔がいいな。

 

「か、帰って来たよ」

 

前髪を上げていた手をさっと後ろに隠してニコッと笑えば、椋木くんは申し訳なさそうに謝った。

 

「え、あ、も、もうそんな時間…!」

 

あわあわと謝る椋木くんに、気にしてないからと言ってあげ、俺は笑顔を作る。

 

「ご飯はもう食べた?」

 

確認すれば椋木くんは黙ってふるふると首を横に振った。

 

「じゃあ食べようよ」
「は、はい…!」

 

嬉しそうに笑いながら俺の背中を押してキッチンへと歩き出す。

 

「(……なにをドキドキしてるんだ俺は)」

 

分かっていたことなのに、椋木くんの顔をまじまじと見たことでなんだか直視するのが恥ずかしくなってしまった。

 

(END)-
椋木「き、今日の料理、ダメでした…?」
主人公「いや!美味しい!美味しいよ!!だからフォークをそんな持ち方しないで!!!」

 

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