河相くんと主人公3

例の男を見かける度に尾行し続けたぼくは、やっとその時を迎えた。そう、男が一人になった瞬間だ。

 

「お兄さん、ちょっといいですかぁ?」

 

ぼくの声に男が振り向けば、どこか迷惑そうな表情をしていてぼくはムスッとした。こんな可愛らしい子に声をかけられて何だその表情は。

 

「はい?」

 

どうしたの?という男にぼくはニッコリと必殺スマイルをかましてやる。

 

「お兄さんって、綾人くんのお兄さんですよね?」

 

そう聞けば男は一瞬「なるほど」という顔をした気がした。

 

「……綾人の知り合い?」

 

そう言ってぼくの目線に合おうように少し屈む男に、ぼくはちょーっとだけドキッとした。

 

「ぼく、東條先輩からよく…」

 

相談されるんですよ、と言おうとして背後から想定外の人物の声が飛んできた。

 

「あれ?綾人のお兄さんと河相くん?」

 

バッと振り向けばそこに居たのは麗しの、ぼくの東條先輩。あああ、こんな所で会えるなんて、ニコッと笑いかけてくれる東條先輩にぼくは気持ちが昂った。

 

「珍しい組み合わせだね、知り合いだったんですか?」

 

東條先輩の問いに対して男が少し苦笑いをしながら答えようとしたので、ぼくはその言葉を遮った。

 

「ぼくの命の恩人なんです!」

 

変に誤解されるような事を言われる前に、ぼくは誤魔化し気味にそう言えば、東條先輩はとても嬉しそうに笑った。

 

「そうなんですか?お兄さんありがとうございます!河相くんは俺と同じ生徒会で、大事な後輩なんです」

 

ニッコリと笑っている東條先輩…!大事、大事だなんて…嬉しいなぁっ!

 

「あぁ、生徒会の子なんだ…」

 

そう小さく呟いた男がニッコリと笑った。先程とは違う表情になんとなく愛想笑いだなとぼくは直感した。

 

「ホント、怪我がなくて良かったよ!じゃあ俺はもう帰る…」

 

そう言いかけた男のスマホが鳴る。男が慌ててスマホを取り出せば電話だったらしく誰かと話し始めた。

 

「(お、これはチャンスでは?東條先輩と二人きりに…)」

 

一緒に居られるかも!と思っていれば男が電話を終える。

 

「お使いのお願いですか?」
「え、あぁ…」

 

ぼくは話の内容なんて聞いていなかったが、東條先輩は男の言葉の断片で分かったらしくニコニコと笑いながら提案する。

 

「運ぶの手伝いましょうか?」

 

え?東條先輩なんて優しいんだろうか?優しすぎですよ。

 

「え、でも…」

 

チラッと男がぼくを見る。ここで東條先輩と別れるなんて勿体なさすぎる…!ぼくの行動は決まっていた。

 

「ぼくもお手伝いしますよ〜!助けてもらったお礼もしたいですし!」

 

きゃぴ!と可愛いポーズでそれっぽい事を言えば東條先輩が嬉しそうに笑った。ふ、ふふ、良いじゃねぇか、この男、使えるぞ?

 

「……じゃあ、行こうか」

 

助かるよ、と相変わらず愛想笑いをする男が歩き出し、東條先輩がその隣を歩くのでぼくも堂々と東條先輩の隣を歩く。あぁ、こんな合法的に東條先輩の隣を歩けるだなんて…!

 

「それにしても嬉しいな、お兄さんが河相くんと仲良くしてくれてて」
「え?」

 

東條先輩の言葉に男が驚く。

 

「俺の知ってる人が仲良くしてるっていいね」

 

東條先輩が、そう微笑みながらぼくと男を見る。その微笑みにぼくは眩みそうになった。ぼ、ぼくに向けて微笑んでくれるなんて…!幸せを噛み締めながらスーパーに着けば、買う物を共有して二手に別れて物を取りに行くことになった。

 

「(チッ、東條先輩と二人きりになれなかった)」

 

しかし、当初の目的はこの男に「東條先輩に近付くな」と言ってやることだったと思い出し、ぼくは少し考える。

 

「(コイツ、なかなか使えそうだなぁ…、利用する価値があるなら…)」

 

男と並んで歩き、人が少なくなったタイミングでぼくは口を開いた。

 

「あの、お兄さんのお名前、教えてもらってもいいですかぁ?」
「え…あぁ…」

 

少し困惑気味な顔をしている男に内心イラッとしつつ、ぼくは全力の笑顔を振りまいた。

 

「……___だよ」
「___さん!ぼくは河相です!よろしくね、お兄さん!」

 

互いに自己紹介をするその顔は、作られた笑顔だなとぼくは冷静に考えた。その後、買い物袋を三人で分け合い、その流れで綾人の家にお邪魔した。

 

(END)-

河相「(チッ!綾人のやつ、ぼくの忠告まるで聞いてねぇじゃねぇか、東條先輩に近いんだよ!!)」

主人公「(めちゃくちゃ綾人に敵意向けた顔しながらジュース飲んどる…)」

 

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