河相くんと主人公5

「___、その子、大丈夫そうか?」
「え、あぁ、うん」

 

時間にして数十分程度だったが、体感としては長く感じた時間を終わらせたのは秋人の言葉だった。警官を連れて来たところを見るに、事情を聞きに来たようだ。

 

「君が襲われてた子だね?辛いかもしれないけれど…話を」

 

目を閉じて俺の腕にくっついていた河相くんが、警官の言葉にパチっと目を開けて真っ直ぐに警官を見つめた。

 

「はい、全部話せます、聞いてください…!」

 

うるうると目を潤ませながら一から十まで警官に報告し、話し終わった河相くんは、やり切った顔をして再び目を閉じた。

 

「ありがとう、じゃあ、あいつらにはキッチリと反省してもらうよ」

 

そう言って警官が軽く頭を下げると「気を付けて帰るんだよ?」と俺たちに言って店を出て行った。

 

「___、どうする?」
「え?」

 

秋人の言葉に俺はマヌケな声を出してしまう。

 

「え?じゃないよ、飲みに行く途中だったけど、その子…」

 

一人で帰らせるのは…と言いかけた秋人に乗っかるように、河相くんが目を開けて口を開いた。

 

「……うん、ぼく、怖い」

 

そう言って潤ませた瞳で俺を見上げてくる河相くんを前にして、俺はたじろいでしまう。いや騙されるな、この子は立派な男の子だ。こんなにも可愛らしい外見をしていて、愛くるしく振る舞っているが本性は、敵とみなしたものに対しては容赦のない腹黒系男子だ…!

 

「(というか君は東條くんが好きじゃなかったのか?!今まであからさまな態度で俺や綾人に忠告的なことチクチクしてたじゃん?)」

 

落ち着け、何かを企んでいるとしたら、二人きりになって口封じをしようという魂胆なのかもしれない。元より最初に出会った時から河相くんは俺に何かを言おうとしていたし。

 

「……送ってあげたらどうだ?飲み会は延期にするからさ」
「え、いや…」

 

ぐるぐると考えていればいつの間にか秋人以外も集まっていた。

 

「そうだぜ、飲み会なんかいつでも出来るしな!」
「店に予約とかしてなくてよかったな」

 

俺抜きで話が進んでいき、滝本たちが「また明日」なんて言って店を出て行ってしまう。おいおいおい、送るもなにも俺はこの子の家なんて知らんっての!なにか勘違いてる気がする。

 

「あの、___さん」

 

ぎゅっと俺の腕を抱きしめていた河相くんが俺に体重をかけてきて、上目遣いで困った顔をして俺の名を呼ぶ。

 

「(騙されてはいけない、この子は立派な男の子、可愛い男の子であって女の子ではない…!)」

 

とはいえ俺より小さいその体で、自分の可愛さを理解している彼はここぞとばかりにその武器を振り回す。

 

「ぼく、今は一人になりたくなくて…、もう少しだけ、ううん、今日は一緒に居てほしいんです」
「……?!」

 

いやいやいや、何を言っているんだこの子は?君の好きは人は東條くんのはずなのに、なぜ俺にそんなことを言ってくるんだ?

 

「(あれか、二度も助けてしまったからか?それとも接する機会が増えたことで東條くんと綾人の関係に完全に気付いたとか…、いやそれで諦めるタイプじゃないよな…?)」

 

ということはやはり助けてしまったのが原因で…、と考えていれば河相くんのスマホが鳴る。

 

「あ、はい、もしもし…」

 

どうやら電話の相手は親のようだ。河相くんの返答を聞いた限り、なんとまぁタイミングよく仕事に出るけどまだ帰らないの?という内容のようだ。

 

「……」

 

チラッと俺の方を見た河相くんが、親にはっきりと告げる。

 

「今日は友達の家に泊まる」

 

それだけ言うと河相くんは電話を切り、改めて俺に向き直った。

 

「いま家に帰ったらぼくはひとりです」

 

だから一緒に居てほしいんです、なんて言ってくる河相くん。確かに複数の男に襲われて怖くない訳はないだろう。しかし、だからといって優しくすればこのままフラグが進行してしまうわけで…。

 

「……いやー、悪いんだけどさ」

 

心を鬼にして断ろうと口を開いた瞬間に俺のスマホが鳴る。邪魔するようなタイミングの電話に、俺は席を外したかったが河相くんがそれを許さない。

 

「はい、あー、親父?」
「___、今日は遅くなるのか?」

 

珍しく休みになった親父が、俺と酒でも飲まないか?という誘いの電話だった。いつもならそんな電話かけてこないのにこんな時に限って、なんて思っていれば河相くんが俺からスマホを奪い取った。

 

「あの、___さんのお父さんですか?」

 

そしてあろうことか親父と話し始めた。え、いや、ちょっとそれはマズイって…!と慌てて奪い返そうとしたが、襲われそうになったところを助けてもらった、ひとりになるのが嫌だ、という所まで話をしてしまう。

 

「あー、あの!親父…」

 

なんとかスマホを取り返せたが、途中まで話を聞いた親父が真面目なトーンで俺に話をする。

 

「___、その子、うちに連れて来なさい、前に家に遊びに来てた子だろ?怖い思いをして助けを求めているんだ」

 

そうだろう?と親父に言われて言い返せず、俺はただ「わかった」と返事をするしかなかった。

 

「……じゃあ、行こうか」
「……!はい!」

 

暖かい飲み物を一杯だけ飲んで店から出て、俺は河相くんを連れて家を目指す。俺の腕にしがみついている河相くんの姿は、側から見ればまるで彼女のような素振りだ。

 

「(男、こいつは男)」

 

俺に頼っているのは成り行きであって俺である必要性はない。ただ利用価値があったからこんな事をしているのだろう。そうだ、後日、東條くんとなんらかのイベントが起こる伏線なのだろう、きっとそうだ。

 

「(惑わされるな、可愛くても男なんだ…!)」

 

ドキドキなんてしていない。

 

(END)-
主人公「(こんな風にくっつかれた事なんて今までなかったな…)」

 

Tos
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