ウイスキーボンボンと善照くん
「___さん!___さん!___さんの好きなやつ、売られてるよ!」
ほらほらと手招きをされて、善照くんの後をついて行けば特設コーナーに毎年のお楽しみが売られていた。
「おー、今年も美味しそうだ…」
どれにしようかと手に取って見比べ、たくさん入ったものを買う事にする。
「チョコ美味しいよねー、楽しみだなぁ!」
いやだから君は食べられないでしょ、と小声で言えば善照くんはムスッとした顔をして腕を組んだ。
「いいや!今度こそ食べる!」
「(どうやって…?)」
と呆れながら買い物を終えて家に帰り、夕食後に買ってきたチョコを加々美と食べる事にした。
「加々美!おれも食べる!」
すごい至近距離で加々美にそう言った善照くんだが、加々美は流れるように小皿にチョコを乗せ、お供えをした。
「ちっがーう!」
そうじゃないとプンスコという擬音が似合いそうな怒り方をした善照くんが加々美を指差す。
「前に誰かの体を借りれば食べられるって言ったじゃん?ちょっとだけ貸してよ!」
お願いだからさ!と頼み込む善照くん。いやいや、その誰かって誰よ?やっぱ俺に取り憑いてるから俺になるのか…?勘弁してほしい。
「(ていうかこれウイスキーボンボンだけど、いやどうなんだ?成人してる体を未成年が借りるってなったらどっちが優先されるんだ?)」
なんてことを考えていれば、善照くんの必死なお願いに加々美がため息を吐いて折れた。
「分かった…、少しだけだぞ?」
「本当!やったー!」
え、マジですか?!心の準備が出来てないんですが…!と思っていれば加々美が善照くんへ手を伸ばし、善照くんは加々美の中へ入っていった。
「(あ、そっち?)」
暫くして加々美が自分の手を見て握りしめたり開いたりすると、ぱぁ!っと明るく笑って両手を上げた。
「わぁ、すごい!肉体がある!」
わぁ、すごい!加々美の顔と声で善照くんがはしゃいでいらっしゃる。絶対に加々美がしないであろう無邪気な笑顔に、ちょっと面白くなってスマホで写真を撮る。……後で怒られそうだ。
「少しだけだから早く食べれば?」
「あ、そうだね!いただきます!」
わーい!と笑いながらチョコ、二、三粒を大事そうに加々美の体で食べる善照くん。しっかり味が分かるようでとても幸せそうだ。
「美味しー!」
「そりゃよかったね…」
ははは、と笑っていれば次第に善照くんの呂律が回らなくなっていった。
「なんか、ふわふわしてきた…」
どうやら未成年の方が優先されるようで、お酒に強い加々美の体なのに顔を赤くしてぽけーっとした表情になる。
「(やっぱりこの世界の未成年ってウイスキーボンボン程度で酔っ払うんだなぁ…)」
そろそろ体から出る頃かな?と思っていれば善照くんが唐突に俺に抱きついてきた、加々美の体で。
「___さーん!」
「うぉっ?!」
ちょ、それはダメだろ!人の体だぞ?!と怒ってみても酔っているせいでまるで聞いてくれない。
「___さんに触れるぅー」
「あ、かが、みじゃない善照く、んむっ」
跳ね除けることも出来ず、善照くんは俺にキスをしてくる。加々美の体で…!
「あ、こら、善照くん…!」
やめなさい!と抵抗してるうちに押し倒されてしまい、このままでは…!と思っていればトスン、と加々美が力なく覆いかぶさってきて、善照くんが抜け出た。
「(……顔真っ赤で、気を失っている)」
幽霊でも酔っ払って寝るんだ…と思っていれば、加々美が赤い顔のまま意識を取り戻して少しだけ起き上がる。
「あ、加々美…」
現状の報告をするべきか?貸してる間って意識あるのか?なんて考えるが、加々美の様子がおかしい事に気が付いた。
「か、加々美…?」
ぽやーっとした真っ赤な顔で、依然として俺を押し倒す構図のまま、俺を見つめてくる加々美。
「(えーと、どういう状況?)」
加々美はお酒に強い人だ。俺より強くて酒を飲んでもこれっぽっちも顔色を変えないタイプ、の筈だが…。
「(ま、まさか…)」
おーい、と呼んでみれば加々美が赤い顔をしたまま俺の頬を撫でた。
「___…」
そして俺の名前を呼べばそのままキスをされ、ぎゅっと抱きしめられた。
「(よ、酔っ払っとるー!)」
キスをされたと思ったらすりすりと俺の体に顔を押し付け、またキスをしてくる。言葉には出さないが、めちゃくちゃに甘えられている。
「ちょ、か、加々美!やめて…!」
「……っ!」
止まってくれ!と抵抗すれば分かりやすくしょげられ泣きそうな顔をされた。
「(よ、幼児退化しとる…!)」
ごめんごめんと撫でてあげれば嬉しそうに微笑み、またキスをされた。
「(あぁ、もう…!)」
その後、酔いが覚めた加々美は暫く落ち込んでいた。
(END)-
主人公「善照くんは今後、アルコール成分の入った飲食は禁止」
善照「へ?」
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