ウイスキーボンボンと柳くん

それは柳くんの一言から始まった。

 

「お、俺!___さんが食べてるチョコレート食べてみたいです!」

 

そう目を輝かせながら言い放った柳くんを前にして、俺は手元にあるチョコレート、ウイスキーボンボンを恐る恐る見た。

 

「………これを?」
「はい!」

 

大人でカッコいい…と考えていそうなその表情に、俺は乾いた笑いが出た。

 

「えっと…」

 

このBL漫画の世界ではウイスキーボンボン数個程度で未成年はベロンベロンに酔ってしまう。絶対に、確実に酔うと俺は断言できる。

 

「(や、柳くんが酔ったらどうなるんだ…?)」

 

酔い方によっては覚悟を決めたほうがいいだろう。

 

「……だ、ダメです、か?」

 

すみません、と見るからに落ち込んでしまう柳くん。俺は慌ててダメじゃないよと口にしてしまう。

 

「ど、どうぞ…」
「いいんですか?ありがとうございます!」

 

あーん、と柳くんが大きく口を開けるので、俺は覚悟を決めてウイスキーボンボンをその口の中に放り込んだ。

 

「んむ…んー!美味しいです!」

 

ニコニコしながら嬉しそうに食べもう一個、と口を開けられてしまい、俺はもう一個も食べさせた。……それから数分後。

 

「そ、そ、それでぇ!姉ちゃんが…!姉ちゃんが酷いんですぅ!!」

 

案の定、柳くんはベロンベロンに酔っ払った訳なのだが。

 

「た、大変だったね」
「そうなんです!酷いんです!あれば人間じゃないです!悪魔です、化け物ですぅ!!」

 

酔って開口一番が大声で「聞いてください!」だった時は驚いた。そして柳くんは怒涛の姉が酷い、という愚痴を吐き出し始めた。

 

「(日頃の恨みつらみが…)」

 

えぐえぐ、と泣きつつ怒りつつ姉の話をする柳くん。どれだけの鬱憤が溜まっていたのだろうと思うくらい柳くんは熱く叫ぶ。

 

「や、柳くん…」
「はい!___さんも酷いと思うでしょ!?」

 

すごい圧で凄まれ、俺はとにかく落ち着かせようと泣き止まない柳くんの頭を優しく撫でて、「頑張ったんだね」と言えば柳くんは更に泣き出した。

 

「うぐっ、___さん…!お、おれの恋人は、やっぱりせい、聖人ですぅ!姉ちゃんに___さんの爪を、煎じての、飲ませたい…!!」

 

そう言って柳くんは俺の手を掴んで頬擦りしだした。これは、相当だな…と思いつつもう片方の空いてる手で背中を摩ってあげれば柳くんは俺に抱きついてきた。

 

「うぅ…!___さぁあん!!」

 

その後、何してんの?と綾人が俺の部屋にやって来てしまい、兄弟揃って柳くんの「姉は酷い」という話を聞かされ続けた。

 

(END)-
主人公「(姉という存在は憧れるが、とんでもない奴はとんでもないっていうのを実感したな…)」

 

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