河相くんと主人公1

体育祭の閉会式に、応援団の学ランを着た生徒会長の東條先輩が、閉めの言葉を話している。

 

「(はぁ〜、今日もカッコいい…)」

 

それをぼくはうっとりと眺めている。東條先輩はカッコよくて美しくて、欠点など無いように見えて実はところどころ天然だったりする。ぼくはそんな東條先輩に"ガチ恋"している。

 

「(話し終えてこっちに戻ってきたら、誰よりも早く駆け寄ってお疲れ様でした!って言ってアピールしねぇと)」

 

東條先輩にぼくの可愛さをアピールして、思わず守ってあげたくなるような子を演じて、いずれは…ふふふ。しかし東條先輩を狙うお邪魔虫は数多くおり、特に中学校から一緒の友達が厄介だなとぼくは考えている。

 

「(東條先輩と長い付き合いだからって調子に乗りやがって…)」

 

ぼくはニコニコと笑顔を絶やさずにしているが、内心はイライラしっぱなしだ。とはいえぼくは東條先輩に近付くために生徒会に入ったので、接触する機会は多いはずだ。

 

「(と、そろそろ終わりそう…)」

 

いつでも駆け寄れるように東條先輩を注視していれば、ふと東條先輩が立ち止まり、どうしたのかと思っていれば東條先輩が"誰か"に向けて手を振って笑った。

 

「(は?)」

 

ドッと黄色い歓声が辺りを包み込む。え?東條先輩が、誰かに向けて、手を振った…???

 

「(あの友達か?いや方角的に違うな…、じゃあ誰に…?)」

 

そう考えながら東條先輩が見ていた方を確認して、ぼくはその人物を見付ける。少々困り顔で手を中途半端に上げて手を振っていた男。

 

「(…あの顔は)」

 

見た事がある、あの憎たらしい友達と似た顔をした男。ぼくは直感で理解した。

 

「(あの友達の血縁者か…)」

 

兄だろうか?兄弟揃って東條先輩を誘惑しているのか?

 

「(むむむむむ…!)」

 

許さねぇ、東條先輩は誰にも渡さねぇぞ!とはいえ東條先輩の気を引くことができる存在、東條先輩の好みを知るためにも調べてみる価値はありそうだと、ぼくはもっと踏み込んだ行動をしようと決意した。

 

「あ、東條先輩!お疲れ様でしたぁ♥」

 

それはそれとして、当初の目的通りぼくは誰よりも早く東條先輩の元へ駆け寄って健気な後輩アピールをした。

 

-

 

体育祭から数日後、自分磨きの為にぼくは繁華街へと出向いた。

 

「(ふんふーん、いい買い物が出来たなぁ♪)」

 

紙袋の中身を何個か確認して大満足で自然と笑顔が溢れる。東條先輩の為を思えば何もかもが楽しくて、次に会う時はどんなコーデにしようか?どうアピールしようか?とウキウキが止まらない。

 

「(あとは…ん?)」

 

ふと見覚えのある人影が見えてぼくは立ち止まった。

 

「(……!あいつは…)」

 

そう、忘れることなどできない、体育祭で東條先輩に笑顔で手を振らせた男。

 

「(こんな所で出会えるなんて…!)」

 

その男はふらふらと路地裏へと入って行く。ぼくはこれ幸いとその後を追うことにした。東條先輩に近付く不届き者にはしっかりと「近付くな」と言ってやらないと気が済まない。

 

「(相手が誰であれ、東條先輩は誰にも渡さねぇよ!)」

 

男の後を追って路地裏に入ったが、姿が見当たらなくて少し戸惑った。どこに行った…?と恐る恐る進み、停められていた車の影に目的の男が居た。

 

「(猫だ…)」

 

男の手元には猫が居り、男に構われて幸せそうだ。男の表情はここからだと見えないが、そんな事はどうでもいい、ぼくは男に声をかけようと息を深く吸った。

 

「ねぇ、お兄さん」

 

ぼくの声に男が振り向いたので、ぼくは言葉を続けようとしたが、唐突に男がぼくの腕を掴んで引き寄せた。

 

「?????」

 

突然の出来事に対処できなくて困惑していれば、背後から勢いよくガシャン!という音がして振り向けば、先ほどまでぼくが居た場所に植木鉢が落ちて粉々に砕けていた。

 

「あ……っぶな」

 

男の声にぼくはハッとして掴まれた手を振り払い、男からすぐに後ずさる。

 

「(た、助けられてしまった…!)」

 

なんたる不覚…!男は何故か少し引き気味な表情をしていたが、ぼくはすぐさまその場から走って逃げた。

 

「あ…!」

 

男の間抜けな声が聞こえた気がしたが、その声は追っては来なかったので一安心して息を吐いた。

 

「(い、今の、東條先輩が相手だったらなぁ…!)」

 

ドキドキしてるのは命の危機だったからであって、あの男に対してじゃない、なのに…。

 

「(た、頼もしいなんて…!)」

 

そんな考えを振り払うように頭を横に振り、男に釘を刺せなくてぼくは大きなため息を吐いた。

 

(END)-
主人公「(目の前に飛び込んできた光景があまりにもヤバい状態だったからつい体が動いてしまったが…、あの子は、誰だ?パッと見は女の子のようだったがこの世界の顔のはっきりした子は大概が男である、つまりあれは男で間違いないだろう…、え、なんか声かけられたよな?どこでフラグが、いや今か?今だった?え、どうしよう、逃げられたけどこれ後日また再会して…ブツブツ)」

 

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