ウイスキーボンボンと三郷くん
それは冬の終わり頃の話。三郷くんが俺の部屋に居るのが当たり前の光景になり、すっかり気を抜けるようになった。
「___さん、今日はな、ごっつええもん持ってきてん」
ニヤニヤと笑いながらゴソゴソと何かを取り出し俺の目の前に置く。
「じゃーん!どや?」
とドヤ顔している恋人から視線を外し、机に置かれた物を見れば、少しお洒落なチョコレートの箱だった。
「三郷くん、安売りのシール付いたまんまだよ?」
「ホンマや!」
バレンタイン限定ってことで売り出されてたチョコレートの売れ残りかな?限定のパッケージなので特売コーナーに入れられていたのだろう。
「お買い得な買い物ができたんだね」
「……!そやろ!オレって買い物上手やねん!」
へへん!と胸を張る三郷くんを見て笑いを堪える。そんな俺なんて気にも留めず、三郷くんはチョコレートの箱を開けて中身を取り出した。
「へぇ、色んな種類が入ってるタイプか」
「美味そうやろ?」
ほれ、と俺にチョコを食べさせようと一つ摘んで差し出す三郷くん。素直に口を開ければ放り込まれた。
「うん、美味しい」
「___さん!次はオレやで」
あーんして、ということなのだろう、口を大きく開けて雛鳥のように、チョコを食べさせてもらえるのを待つ三郷くん。
「(体だけじゃなく口もデッカいなぁ…)」
そんなことを思いつつ俺もチョコを一つ摘んで三郷くんの口の中に放り込んだ。
「んー!___さんに食べさせてもらえるチョコは最高やで…!」
大袈裟に喜ぶ三郷くん。そうですか、そりゃよかったですね。二人でチョコを食べ進めていくと、段々と三郷くんの様子がおかしくなってきた。
「___さんはホンマごっつかわええなぁ…」
何故か可愛い、を連呼しはじめたのである。最初こそ会話の流れでさりげない感じだったのだが、今ではそれしか言わないのである。
「み、三郷くん…?」
というかなんか顔が赤くない…?どうしたんだ、まるで酔っ払い…とそこまで考えて俺はハッとした。
「かわええわ、ホンマにかわええ…ヒック」
俺はすぐさま三郷くんが持ってきたチョコの箱の全ての側面を確認した。
「(……あった!なになに…げ、やっぱりウイスキーボンボン入ってた…!!)」
成分表の小さな文字を確認して俺はやってしまった、と頭を抱えた。どうやら三郷くんが食べたチョコレートにウイスキーボンボンが二個あったようだ。
「あー、かわええなぁ、よしよしやでー」
どうしようと思っていれば不意に三郷くんの大きな手が俺のほっぺを包むと、そのまま犬を撫でるような手つきでわしゃわしゃされる。
「ちょ、三郷くん…!」
分かったから、と言っても三郷くんの動きは止まらない。
「兄ちゃんはホンマにかわええよ、オレの恋人ホンマ最高やで、かわええ、かわええなぁ!」
頭を、背中を、ほっぺたを、ありとあらゆるところを撫でくりまわされる。どこぞの動物博士かなんかです?ぎゅうっと抱きしめられたが、それでも「かわいい」と撫でることをやめない三郷くん。
「いや、あの、ちょっと…」
流石の俺もそんなに「かわいい」なんて言われれば恥ずかしくなってくる。それでも三郷くんはその言葉をやめてくれない、そして俺を撫で続ける。
「(ひぃぃ…!)」
俺は三郷くんの酔いが醒めるまで、ひたすら耐え続けた。
(END)-
三郷「………?___さん顔がトマトみたいになってんで?!」
主人公「ナンデデショウネー」
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