河相くんと主人公4
綾人の兄、___という男と接点を持ってから、ぼくはより一層、東條先輩と関わることが増えた。……綾人とも接する機会が増えたが牽制するには丁度いい。
「(学校でも以前より話しかけてもらえるようになったし、なんて幸せなんだろう…!)」
綾人は以前よりウザくなったが、まぁそれは些細なことだ。そして___の観察を続けていくうちに、目立たないがトラブルも起こさない、他者を立てる事に長けたその行動に気が付く。
「(変な奴…)」
まぁいい、それでぼくと東條先輩の仲を取り持ってくれれば最高だ。___にぼくの良さをアピールしてフォローしてもらえれば、東條先輩ともっともっと親密になれるだろう。
「(体育祭でのことは腹立たしいが、利用価値があるなら話は別だ)」
利用できるものはなんでも利用しないとな。そんなことを考えながら、ぼくはいつもの自分磨きの為に街へと出向く。
「(そういえば、___と初めて接触できた場所ってここだっけ…)」
買い物を済ませて歩いていると、あの日の路地裏を見つけた。突然手を引かれて驚いたが、命の危機から救ってもらえた場所。
「(まぁ…、あの時は頼もしかったけど)」
あれが東條先輩だったなら、とよく考える。……してない、あんな平凡な男にドキドキなんてしていない。
「にゃあん」
むむむ、と考え込んでいれば、いつの間にか足元に一匹の猫が居た。
「あれ、キミは…」
___が構っていた猫のようだ、ここら辺が活動範囲のようで、すりすりとぼくの足に体を擦り付ける。
「人懐っこい子だな」
買い物袋を置いて、よしよしと猫を構えば嬉しそうに喉を鳴らした。人気も少ない場所だし、東條先輩を誘い出していい雰囲気になれるかもしれない。
「(うんうん、いいかもしれない…)」
なんて上機嫌に鼻歌を歌いながら猫を構っていれば、不意に声をかけられた。
「こんなところで何してるのかな?」
「可愛いねぇ、オレたちと遊ばない?」
チッ、面倒くさそうな連中が絡んできやがった。振り向けば僕より年上と思わしき数名の男が近寄ってきた。見た目で判断するのは良くないと東條先輩からよく注意されるが、どう見てもこの男たちは不良と呼ばれる類の連中だろう。
「何か用ですか?」
買い物袋を持ち、毅然とした態度で対応すれば、男たちがぼくを取り囲む。
「遊ぼうって言ってるんだよ」
「お兄さんたちといい事しようぜ」
下品な目でぼくを見てくる男たちが「やべぇすげぇ好み」なんて言っている。虫酸が走る、ぼくは東條先輩しか興味がないんだよ、と心の中で吐き捨て男たちを睨みつける。
「……んだよ」
「あ?」
なに?とぼくに顔を近付けてきた男の股を思い切り蹴り上げてやった。
「気安いんだよ!!」
蹴られてその場に蹲った男を見て驚いた連中の隙をついてもう一人、男を蹴飛ばしてやる。ぼくをか弱そうだと見た目で判断したことを後悔させてやる!
「な、てめぇ!」
ぼくの行動に反撃してきた男をかわして、腹を蹴ってやれば他の男たちが後ずさった。ふん、ぼくより年上のくせして弱い奴らだ、群れないと何もできないのか?
「とっとと失せやがれ!」
そう言い放てば男たちが更に数歩後ずさる。ふん、雑魚どもめ、と思っていれば突如背後から手が伸びてきて羽交い締めにされた。
「(……!しまった、まだ居たのか?!)」
ぼくの身動きを封じたのを見た男たちが口元を緩ませる。
「……へ、へへ、よくもやってくれたなぁ?」
「大人しくしてりゃよかったものを」
そうしてじりじりとぼくに近付いてくる。その目は完全に獣だ。
「(…っ、マズい!体格差もあって流石にこれは…っ!)」
助けを呼ぼうとした瞬間に口元を押さえられ、体を触られる。マジでヤバい、こんな連中に襲われるなんて…!
「んんー!」
ゲシゲシと足をバタつかせて抵抗するも簡単に押さえつけられてしまう。調子に乗り過ぎた、一人目の男を攻撃した時にさっさと逃げればよかった。
「すぐ気持ち良くなるから」
そう言ってぼくの服を脱がそうとする男に流石のぼくも恐怖に涙が溢れてきた。嫌だ、こんな連中に…!東條先輩…助けて…!
「シャー!」
「あで?!チッ!なんだよこの…!」
先程の猫が男の一人に威嚇して引っ掻いた。ぼくを助けようとしてくれてるの?と思っていれば男が猫を殴ろうとして腕を上げたその時、腕を上げた男の顔面にペットボトルが勢いよく飛んできた。
「ぐはっ?!」
ペットボトルが当たってぶっ倒れた男を見て、なんだなんだ?!とぼくを押さえつけていた男たちがペットボトルが飛んできた方を見る。まさか、本当に東條先輩が…?とぼくもそちらに目を向ければ期待していた人物とは違う人物がそこに居た。
「___!いきなり走り出してどうしたん…って、お前ら!何をしてるんだ?!」
「……!秋人、すぐに警察を呼べ!」
そう、そこに居たのは綾人の兄の___だ。友人も一緒だったようで秋人と呼ばれた人がスマホを取り出して警察に電話をかける。それを見た男たちが「まずい」とぼくを押さえつけるのをやめて逃げようとする。
「させるか!マサヤたちも…」
「おう!任せろ!」
どうやら友人は他にも居たようで男たちを捕まえて押さえつけた。
「……っ、___さん!」
「え、わっ?!」
流石の出来事に、男たちに触られていた感触を早く忘れたくて、ぼくは思わず___に抱きついてしまう。知ってる人の匂いに、少し落ち着いた。
「___、早くその子、安心できる場所に移動させた方がいい」
「え、あ、あぁ…」
友人に促された___は、自分の上着をぼくに着せ、ぼくの手を握ってその場から連れ出してくれる。その大きな手と温もりに、ぼくはドキッとした。
「(い、いや、これはそういうんじゃねぇし…)」
そして近場にあった飲食店に入るとソファ席に座らせられた。薄暗い路地裏から明るい場所にやって来て、ぼくはとても安心した。
「……えーと、大丈夫?」
「……はい」
大丈夫です、と言葉にすれば、ポロポロと涙が溢れてきてしまった。流石に、そう流石のぼくでも先程の出来事はあまりにも、怖かった。
「ええと、み、水取ってくる…!」
普段、気の利いた行動をする___にしては珍しく、傷心の人物を一人にさせるなんて行動を取ろうとする___の腕をぼくは掴み、隣に座ってと引っ張った。
「今は、一人にさせないでください」
「……そ、そお」
ぼくがそう言えば、___は少し困惑気味に返事をした。
「(今だけは…)」
ぎゅっと___の腕を抱きしめ、心を落ち着かせようと目を閉じた。
(END)-
主人公「(これ完全にフラグ立ててしまったかも…、いやでもあのまま猫が殴られるところなんて見過ごせるわけないし、ていうかめちゃくちゃ危機だったし、流石に、流石に無視は出来ねーって…!)」
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