河相くんと主人公6

ぼくは王子様に憧れている。カッコよくて頼もしくて、誰よりも強くて凛々しくて…そう、まさに東條先輩のような人だと思った。

 

「(頭が良くて運動神経も抜群で、人望もあって…)」

 

何もかもがぼくの理想の人で、ぼくだけの王子様になってほしくて。でもぼくはただ選ばれるのを待ってるだけの愚か者ではない。

 

「(だから今まで振り向いてもらおうと、ぼくの良さを知ってもらおうと、たくさんアピールしてきた)」

 

けれども東條先輩はぼくだけの王子様にはなってくれなかった。知っていたとも、分かっていたとも、東條先輩に好きな人がいることなんて、それが誰かって事も知っていた。

 

「(それでも負けるつもりはない、行動しないで後悔するより、全力であらゆる手を使って、東條先輩に振り向いてもらおうと、していたんだ…)」

 

でも結局のところ、現実はそうならなかった。

 

「___、その子、大丈夫そうか?」
「え、あぁ、うん」

 

___さんの腕を抱きしめて目を瞑っていると声が降ってきた。___さんの友人の声だ、ぼくを襲った連中はどうなったのだろうかと思っていれば、別の人がぼくに話しかけてきた。

 

「君が襲われてた子だね?辛いかもしれないけれど…話を」

 

警官かな?ぼくは目を開けて確認する。申し訳なさそうな顔をしている警官と目が合って、ぼくは瞳を潤ませた。

 

「はい、全部話せます、聞いてください…!」

 

あのクソ野郎どもにはきっちりと罰を受けてもらわねぇとな、と渾身の怖かったムーブで警官に全てを話し、ぼくは演技をやり切り再び目を閉じる。

 

「ありがとう、じゃあ、あいつらにはキッチリと反省してもらうよ」

 

反省で済まさないでほしいがな、出来ることなら一人一人の股を蹴り上げてやりてぇ気分だ。

 

「___、どうする?」
「え?」

 

友人の問いかけに___さんは困惑した声を出す。チラッと目を開けて表情を確認すれば少し焦ってるような、ちょっと困ってるような顔をしていた。

 

「(……)」

 

助けられてからというもの、どうにも眩しくて、輝いて見えるその横顔に、ぼくの胸がうるさく鼓動する。初めて見た時は、綾人そっくりなマヌケ面だなとか思っていたのに。

 

「え?じゃないよ、飲みに行く途中だったけど、その子…、一人で帰らせるのは…」

 

___さんの友人の問いかけに、ぼくは思わず口を開いた。

 

「……うん、ぼく、怖い」

 

うるうると瞳を潤ませて___さんをじっと見つめれば、明らかに狼狽える姿の___さんが居て、ぼくは何故だがゾクっときた。今までちゃんと見て来なかったが、こんなにもカッコよかっただろうか?ぼくより背が高くて、ぼくより大人の人が、ぼくに対して困っている。

 

「(ぼくの危機を、二回も救った人…)」

 

頼もしいと、思ったことはある。ドキドキしたことも確かにあった。東條先輩はぼくにとっての、ぼくだけの王子様ではなかった。ならばきっと…。

 

「……送ってあげたらどうだ?飲み会は延期にするからさ」

 

友人の言葉に対して___さんは明らかに戸惑ってばかりだ、そんな姿が妙に可愛いと思えてしまう。

 

「(心なしか___さんの胸の音が聞こえる気がする)」

 

いや、これはぼくの音だろうか?___さんの友人たちはどんどん話を進めていき、勝手に解散してぼくと___さんを二人きりにしてくれた。ぼくはもう少し、もうちょっと___さんの側にいて、もっと困らせてみたいという思いで必死に食らいつき、家に連れて行ってもらえることになった。

 

「(タイミングよく電話をかけてきてくれた___さんのお父さんに感謝しなきゃ)」

 

そうして___さんの腕にしがみついたまま歩き、___さんの家へと辿り着く。

 

「ただいま…」
「おぉ、おかえり」

 

家に上がれば___さんのお父さんが出迎えてくれて、暖かい言葉を投げかけてくれる。

 

「怖かっただろう」
「うん…、でも___さんが助けてくれました」

 

だからもう大丈夫です、と微笑めば___さんのお父さんも優しく微笑んだ。

 

「ゆっくりしていくといい、来客用の布団を取ってこよう」

 

そう言って離れようとする___さんのお父さんをぼくは呼び止めた。

 

「___さんと同じベッドで寝ます!」

 

その言葉に___さんが心底驚いた顔をしてぼくを見た。そんな表情も可愛いと思える。

 

「心細くて…」

 

そう言ってぎゅっと腕を掴む手に力を込めれば、___さんのお父さんは納得したような顔をして笑った。

 

「そうか、じゃあ___、頼んだよ?おやすみ」
「え、あぁ…はい」

 

ぽん、と___さんの肩を叩けば___さんのお父さんは離れていった。

 

「……」

 

じーっと___さんを見つめれば、あからさまに目を逸らされる。

 

「(こうやって見ると、本当にカッコいい…)」

 

鋭い眼差しに、泣き黒子がセクシーだ。

 

「お部屋はどこですかぁ?」

 

そう聞けば___さんは頭を抱えた。

 

「あ、あの…さ、同じベッドで寝るのはどうかと思うんだけど…」
「なんでですか?ぼくたち男同士ですよ?」

 

心細いので一緒に寝てほしいです、と可愛らしくお願いをすれば___さんは軽く頬を赤くする。効いてる、今まではまるっきり眼中にない感じだったのが効いている…!

 

「(ゾクゾクする、なんだろうこの感じ)」

 

お願いしますと、___さんと数分間に渡って攻防し、遂に折れた___さんはぼくを自室に連れてってくれた。

 

「(やった…!)」

 

そうして___さんの自室に入り、上着を脱いで___さんのベッドにお邪魔する。

 

「……___さん?」

 

___さんがベッドに来ないなと思っていれば、床で雑魚寝しようとする___さんに気が付いて、声をかければ___さんの体がビクついた。

 

「一緒に寝ましょうよ」

 

ほら、こっちこっち!と腕を掴んでベッドに引っ張れば___さんが困惑した顔をする。布団を被ってぎゅっと___さんに抱きつき目を閉じれば、ぼくはすごく安心した。

 

「(___さんの胸の音…)」

 

ドクンドクンと脈打つ___さんの心臓の音を子守唄に、ぼくは気が付けば眠っていた。

 

(END)-
主人公「(落ち着け、男だ、この子は男だ…!)」

 

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