椋木くんと主人公2
「(××綾人、カミサマとは中学の頃に接触、偏食家、悪魔のくせに怖いものがダメ、兄が嫌いとぬかすが、心底依存気味…)」
カチカチとパソコンに収集した情報を打ち込む。
「(××___、悪魔の兄、カミサマからは面白い人物として見られている様子、無感情、猫に弱い、自己中らしいが悪魔の言いなり、勘が鋭いのでなかなか尻尾を掴めない…)」
この兄、何度考えても悪魔より手強い相手だと爪を噛む。俺の存在に気付いているようですぐ逃げられるため、情報は悪魔とその仲間の俗物どもから収集した。
「(さて、裁きの準備は整ったな…)」
ふ、ふふふ…、ありとあらゆる手を使って制裁を下す。悪魔の髪の毛は手に入れている、後はその兄の髪の毛を手に入れて、俺の力で苦しめてやろう…と考えていたのだが。
「(しかしどうやって入手するか…?)」
悪魔の兄は尾行してもすぐに逃げてしまう。悪魔と違って入手難度は極めて高いのだ。
「あれだけ手強いと、このやり方は通じないのかもしれん…ならば」
悪魔の兄は別の手段で苦しめるかと、立ち上がり棚の引き出しを開ける。そこからとっておきの遺物を取り出す。
「これを、突き出せば…、やつは苦しむだろう…」
可能ならば取っておきたかったが、手強い相手だ、出し惜しみはしないぞ…。そうして様子を窺いつつ俺は行動に移した、先ずは強敵の兄から制裁して、悪魔を苦しめてやろう。
「(奴はこの時間にいつもここを通る…)」
尾行をしては気付かれてしまうので、細心の注意を払って待ち伏せをする。予定の時刻になり奴が現れた。
「(む、悪魔と一緒か…)」
想定外だったがまぁいいか。悪魔兄弟は仲良さそうに並んで歩いてきた。
「でさー、東條が言ったんだよ」
「(!!)」
あの悪魔め…!俺のメシア、カミサマに相変わらず馴れ馴れしい…!
「それでオレ、そんなわけねぇだろ!ってつい叩いちゃって…」
「相変わらずバイオレンスだなお前」
ははは、と感情の乗ってない声で悪魔の話を笑う兄。おい悪魔、いま生徒会長を叩いたとか言ったか…?許さない許さない許さない…!こうなったらやはりお前からだ…!
「あ、兄貴、喉渇いたからなんか買って、待ってるから」
「はぁ…はいはい」
タイミングよく兄が悪魔から離れていく。悪魔は俺の存在に気付いていないようで、無防備に俺から背を向けて、信号機のボタンがある電柱に寄りかかっている。
「(今日がお前の…!)」
気配を消して悪魔の背後に近付き手を伸ばそうとして、前方から犬が走ってきた。
「おわっ?!」
捕まえてほしいと叫ぶ少女の声と同時に悪魔が犬を捕まえようとして、振り向こうとしたので俺は慌ててその背後に回った。
「っ?!」
急いで背後に回った拍子に足を踏み外す。悪魔はそのまま犬を追いかけて行くが、俺は車道側に倒れそうになった。信号は赤、鉄の塊が音を鳴らしている。
「うぉおおおっ!」
そのまま倒れそうになって目を閉じてすぐに、叫び声を上げながら誰かが俺の手を掴んで力いっぱいに引き寄せてくれた。
「あ、危ないだろ…!!」
気を付けろよ!と鉄の塊に乗る俗物が叫び走り去って行く。あまりの事態に俺の心臓が叫んでうるさい。
「だ、大丈夫…だったか?」
「……へ?」
その声に俺は声の主を見る。危なかったな、と深い息を吐き、その場に座り込み心底安心した顔をする、悪魔の兄が、居た。
「(た、助けた…?)」
何故だ?俺に狙われていることなど気付いていたはずだ、そんな相手を…助けただと…?
「お、おいおい!どうしたんだよ…って、お前…」
「!!!」
犬を抱えた悪魔が駆け寄ってきて、俺を見る。まずい…!
「あ、ちょっと君…!」
作戦は失敗だ、早急に悪魔兄弟から逃げなければ…!声をかけられたが俺は一心不乱に逃げ出した。心臓は、まだうるさかった…。
(END)-
走り過ぎて、顔が熱い。
-
おまけ
「アイツ確か、保健委員の椋木じゃん」
何があったんだ?とキョトンとした顔の綾人に俺はつい睨んでしまった。
「(今まさに車に轢かれるかもしれない大事件が起こりかけてたんだぞ…)」
ここ最近、誰かに尾行されてたり待ち伏せされてる気はしていた。今回は遂にその人物が接触しようとしてきたようだが、運が良いのか悪いのか。当の綾人は犬を捕まえようと行動して助かり、手を出そうとした相手が車道に飛び出してしまうという、最悪な場面を目の当たりにしてしまった。
「(流石に周りに俺しか居ない状況で、助けないとか無理無理…)」
これで大怪我をされては非常に心が痛い、いや車とぶつかったら大怪我では済まない可能性の方がある。
「(いや、というか…)」
助けてしまったが故にフラグを立ててしまったので、すぐに折りたかったが逃げられてしまった。そもそもなんでストーカーされてたのかすら不明なんだ。いや目と目が合っただけで恋に落ちてしまう世界だ、そんな感じなんだろう。
「お兄ちゃん、わたあめを捕まえてくれてありがとう!」
「ちゃんとリード握っとけよ?」
犬の飼い主である少女が綾人にお礼を言ってしっかり犬のリードを握る。よしよし、と頭を撫でて笑う綾人に、少女は嬉しそうに笑い、犬を連れて離れていった。
「はぁ…」
「いつまでそうしてんだよ」
地べたに座り込む俺に綾人が呆れた顔をする。なんて言ったっけ…?椋木くん?どんな人物だ?家に帰ったら聞き出そう…。そう思いながらゆっくりと立ち上がり、俺は信号機のボタンを押した。
-