椋木くんと主人公3

○月×日、今日はいつもより少し遅く家を出て大学に向かう。○月××日、学校の帰りにいつもの猫カフェに向かう。△月×日、友の家で酒を飲み具合悪げに帰宅。

 

「(△月××日、公園で猫におやつをあげ、満面の笑みで猫を撫でる…)」

 

カタカタと観察した内容を無心でパソコンに入力していく。あの日、___に助けられてから俺は、何故なのか?どんな思案があるのか?と考え続け、生徒会長を見守りながら___の情報収集を続けていた。

 

「(そろそろバイトを終えて駅に向かっている時間か…)」

 

モニターの右下に目をやり、入力を中断してカメラを持って外に出る。___は勘が鋭いので毎回違う角度で待ち伏せをするようにしている。

 

「(……!来たか)」

 

バレないよう慎重に隠れてシャッターを押す。今日も相変わらず無感情な顔で、しかし何かを警戒しながら歩いている。

 

「あ、お兄さん……どうしました?」
「と、東條くん…、こんばんは」

 

___を見つけて嬉しそうにニコッと笑いながら、生徒会長が近付いていくが___の顔を見て眉を下げ心配そうな顔をする。___はここ最近、何かを気にしているように辺りを警戒している、やはり俺の存在に気付いているのだろう。

 

「今、帰りですか?」
「あ、あぁ、そうだよ」

 

そう言いながら引きつった顔で___は笑う。その表情を逃さないように俺はシャッターを押す。

 

「……!」

 

こちら側にチラッと視線を向けた気がしたが、スマホが鳴り___はそれを手に取り確認して落胆した。

 

「どうかしました?」
「いや、母さんからお使いのお願いが来まして…」

 

ほら、とスマホの画面を生徒会長に向ければ生徒会長は苦笑いをする。俺はその表情も逃さずカメラに収めた。

 

「よかったら運ぶの手伝いましょうか?」
「え、いやその…」

 

キラキラと眩しい笑顔を___に向ける俺のメシア、カミサマ。

 

「(___…、彼は…もしや天使なのでは…?)」

 

実は悪魔と決めつけていたがあの綾人も元は天使で、カミサマを独り占めしようとして堕天した愚か者なのでは…?そうでなければあの生徒会長がこうも心を許しているはずがない…。

 

「(そう、カミサマが笑顔を向けるに相応しい相手で、___サマも弟に誑かされているのでは…?)」

 

だからあの時、俺を助けてくださったんだ。そうだ、そうに違いない。生徒会長と共に並んで歩いて行く姿をその場で見守り、俺は決意した。

 

「お守りしなければ…」

 

-

 

「(う、また視線を感じる…)」

 

初めて尾行されていることに気付いたあの日から、この視線は日に日に増していて、尾行だけでなく盗撮もされていると気が付いてゾッとした。そんな視線が夜のバイト帰り中に感じて、いよいよヤバいなと汗が流れる。

 

「(相手はなんとなくだが、あの椋木くんとやらなんだろう…)」

 

車に轢かれかけたところを助けてしまい、なす術なく逃げられてからは一切姿を見せず、接触もして来ない。綾人からの話を聞けば、暗い奴でー近寄りがたい雰囲気でーなんか噂では怪しい呪術にハマっているらしいとかー、との事で確かに綾人に手を出そうとしていた時、なにか手に持っていた気がする。

 

「(めちゃくちゃヤバいタイプであることは確実…)」

 

とんでもねぇもんに目を付けられてしまったという事実に、どうしたらいいのだろうかと頭を抱える。とはいえ警察にお願いするにも証明できないし…、盗聴とかされてないだろうかと探してみたが流石にそれは大丈夫だった。

 

「(しかし、このままでは…)」

 

フラグを折りたくても折れない。綾人の学校に凸する訳にもいかないし…。そんなことを考えながら早く帰りたいと次第に足が早くなる。

 

「(いや流石に、この時間で視線を感じるのはヤバいって)」

 

おい高校生!こんな時間に外を出るな!と心の中で叫び散らかしながら、気が付けば追われるように走り出す。

 

「(あ、ヤバい、なんか…)」

 

背後から足音が聞こえる。いや確実に追われてるじゃん…!?ええい!こうなったらイケメン警官でもいいから通りがかって助けてくれ!そう思いながら俺は必死に走り、家が視界に入ってきて少し安堵する。

 

「(ええと、鍵は…)」

 

早く家の中に入らないと、と鍵を取り出そうとして落としてしまった。こんな時にそんなベタな失敗を…!落とした拍子に足を止めてしまい、背後からぬっと手が伸びてきて、俺は口元を布で押さえられ意識を失った…。

 

「(こ、こは…)」

 

朦朧とする意識の中、暗い部屋で目を覚ます。見知らぬ場所だ、完全に知らない場所だ。はっきりしない意識でなんとか現状を把握しようと辺りを見回して、壁一面に貼られている俺と東條くんの写真に背筋が凍りついた。

 

「お、お…起きました…?」
「…!?!」

 

おずおずと扉から顔を出して俺を見る一人の男。やはりあの時、俺が助けた椋木くんだ…。暗い部屋なので何もかもが不気味に見える。

 

「き、みは…」

 

ええと、こういう時、どうすればいいんだっけ?当たり前だが俺の持ち物は奪われてしまっている。というか、あの、腕が縛られてるんですけど…!!

 

「だ、大丈夫、こ、怖がらないで…」

 

そう言ってゆったりとした動きで俺に近付いてくる椋木くん。どんな表情をしているのか暗くて分かりづらいし、更に髪のせいで真っ暗な顔に見える。思わず後ずさってしまう俺を見て、椋木くんは何度も大丈夫だと言ってくる。

 

「え、と…この、腕を縛ってるの解いて…!」

 

いや俺の後をつけて誘拐したやつに、こんなこと言っても無駄だよなと思いつつそれでも言葉にする。というかこの部屋の壁を見るに東條くんのストーカーだよな?なんで俺もストーカー対象にされたんだ?

 

「お…お、俺…、___サマをお守り、したくて」
「は、はい??」

 

堕天使が、カミサマが、とかぶっ飛んだ話をしてくる椋木くん。参考書で鍛えられた読解力によると、椋木くんにとって東條くんはメシアでカミサマなので、それに群がってくる俗物を嫌い、特に親友であった綾人が不敬だから裁きを下してやろうと尾行して俺を知り、俺が椋木くんを助けてしまったせいで天使なんじゃないかって思い至っちゃって、だからカミサマである東條くんに心許され笑顔を向けられるに相応しい存在なんだと…って長いわ!

 

「(分からん分からん、意味が分からん)」

 

ヤバいと言うことしか分からん。

 

「い、家に帰りたいんだけど!」

 

天使だって言うなら捕まえようとしないでくれます?それこそバチが当たるんじゃないの?俺の言葉に椋木くんはにっこりと笑った気がした。

 

「大丈夫、ですから…、あの堕天した弟からま、守りますから…」

 

完全に椋木くんにとって綾人は敵なのだろう。

 

「自衛は出来てるから、お構いなく!」

 

こういうタイプは話を合わせて納得してもらうしかあるまい。理屈で通じる相手ではない。俺はつい必死に叫んでしまった。そんな俺を見た椋木くんが嬉しそうな声を出す。

 

「そんな顔、は、初めて見た…」
「!!」

 

あ、まずい。

 

「ふ、ふふ…、俺の、天使サマぁ…」

 

ゆらっと両手が伸ばされて、壁際に追い詰められていた俺は逃げられず、椋木くんに愛おしそうに抱きしめられてしまう。三郷くんといい勝負をしそうな大きい体をしているのでスッポリと腕の中に収まってしまい、驚いていればそのまま押し倒されてしまった。

 

「ちょ、く、椋木く…っ!」

 

咄嗟に名前を口走り、しまった!と後悔する。案の定、名前を呼ばれた椋木くんは心底嬉しそうに口角を上げた。

 

「あぁ、俺の名前、し、知ってたんだ…!う、嬉しいな」

 

そう言ってずいっと顔を近付けて唇を奪われた。遠慮もなく舌まで入れられ好き勝手に求められる。

 

「んぅ…っ!!」

 

抵抗もうまく出来ない状況だ、バタバタと足をバタつかせるのが精一杯。しかしそんなことなど気にも留めない椋木くんはキスをやめてくれない。

 

「(い、息できない…!)」

 

正直すごく怖いし混乱してるしパニクっている自覚がある。深く深く求められ、息が出来なくて意識が朦朧としてくる。

 

「…っふ、はぁっ!はっ…はっ…」

 

やっと解放されて必死に息を吸う。そんな俺を愛おしそうに撫で首筋に顔を埋めてくる椋木くん。

 

「ちょっ…と!やめろ…!」

 

ちゅっと強く首筋を吸われてしまった。これ絶対に跡が残るやつだ。

 

「___サマ」

 

うっとりとしている顔で俺の名前を呼ぶ椋木くん…。俺は苦しさから生理的に出てしまった涙がこぼれ落ちっていってしまう。そんな俺を見下ろす椋木くんがぎゅうっと俺を抱きしめた。

 

「お守りしますよ…」

 

そう言って椋木くんはまた俺の唇を奪った。

 

(END)-
ずぅっと一緒だよ。

 

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