椋木くんと主人公6

___サマを保護してから12日目。最初こそ困惑していたが今ではすっかり落ち着いている。新しく教えてもらったことが多々あって俺も戸惑ったりしたが、徐々に飲み込めてきている。

 

「よー、最近なんか遅いな」
「ん、まぁ…ちょっとな」

 

___サマが大学に着いたようで俗物と話をしている。この声は、タキモトだな。なにかと___サマの隣の席に座っている一人で、授業中はアキヒトという俗物も___サマに馴れ馴れしく話しかけてくる。

 

「(……)」

 

大学の位置は把握している。しかしまだ姿は分からない人物だ。生徒会長の為にも俺が学校を休むわけにはいかないので確認出来ていない。

 

「そうだ、今度マサヤん家で飲み会しようぜ」
「え、あー、今度…?」

 

「そうそう」と___サマの隣で喋っているであろうタキモトに腹が立つ。少し離れたところからアキヒトの声も聞こえてきた、やはり居たか。

 

「洋司の誕生日に合わせてさ、みんなで祝いたいなって話してただろ?」
「あー…、そうだったな」

 

戸惑っている___サマの声に、困らせるなとイライラしてしまう。

 

「あ、椋木くんちょっといいかい?」
「は、はい…!!」

 

生徒会長に声をかけられ慌てて音声を切りイヤホンを外す。___サマの会話が気になるところだが、役目を果たさないと…!

 

「なにか音楽でも聴いていたのかい?」
「え、ええと…は、はい…」

 

か、カミサマが俺のことを気にしてくれている…!嬉しくなって少し雑談をすれば、いつの間にか授業時間が迫ってきて、また後でとカミサマに手を振ってもらえた。

 

「(___サマのことも気になるが、今は授業は受けないと…)」

 

期待してくれているカミサマの為にも教室に戻って授業を受ける。そうして休み時間になり、___サマの方はどうなっただろうかとイヤホンをしてスイッチを入れる。

 

「よっ!___!」

 

バシッ。

 

「あでっ?!」

 

真っ先に聴こえてきた音に思考が止まる。天使サマを叩いた…?誰だ…?許さない許さない許さない…!

 

「___、飲み会参加しないんだってな」
「あ、あぁ…」

 

どうやらタキモトに誘われた飲み会には参加しないと返答したようだ。そのことに少しホッとする。しかし天使サマを叩いた不敬者、この声はリョウタだな?許されない…、裁きを下さねば…!

 

「滝本から話は聞いたけど、その怪我してる友達って大学のやつじゃないよな?でもま、早く良くなるといいな」
「あ、あぁ…」

 

………騙されないぞ、天使サマも騙されないでくださいよ。なんとかして___サマに寄ってくる俗物に接触することは出来ないだろうかと考える。裁きを下すにも髪の毛や正しい名前、顔が分からないと…。

 

「(そうだ…)」

 

いい考えが浮かんだ。その日の授業を終え、生徒会の作業も急いで終わらせ、すぐに家に帰宅する。___サマに早く帰宅してほしいと連絡を入れて待つ。

 

「ただいま」
「おかえりなさい!」

 

帰ってきた___サマを抱きしめて優しく背中をさする。どこを叩かれたのかは分からないが、怪我はないなと確認する。

 

「きょ、今日は特に甘えん坊だね…」

 

ははは、と乾いた笑いをする___サマを持ち上げて部屋まで運び、ベッドに座ってもらう。

 

「___さん」

 

俺は同じ目線になるように立ちにっこりと笑ってから、___サマをベッドに押し倒した。

 

「ど、どうしたの…?」

 

困惑している___サマに俺は懇願をする。

 

「___さんの、おトモダチ…の誕生日、俺、参加したいです…」

 

そう言えば___サマは何かを察した顔をして俺の胸を押して起き上がった。

 

「話を聞いていたか…、なら俺はそれに参加しないって事にしたから」
「参加していいです、俺も連れてってください」

 

離れようとした___サマを逃すまいと、ぎゅっと抱きしめて懇願しても___サマは嫌そうな顔をする。

 

「………髪の毛とか取る気でしょ?」

 

俺の考えを見抜いていた___サマに対して、俺は黙って口角を上げれば、___サマは怒った。

 

「ダメダメダメ!絶対にダメ!!」
「何故ですか?馴れ馴れしいヤツも天使サマを叩く不敬者も許されない、裁きを下さねば…、髪の毛だけじゃない、顔や正しい名前も知らないと呪えない」

 

俺の腕から離れようともがく___サマを逃さないように腕に力を込める。それでも___サマは抵抗してくる。

 

「俺の友達を呪おうとするなぁー!!」

 

その日は夜遅くまで押し問答を繰り返し、結局___サマからの許しは得られなかった。チッ、今回は天使サマの慈悲に感謝しろよ俗物どもめ。

 

(END)-
主人公「(そもそもなんて紹介すればいいんだよ…)」

 

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